神7のストーリーを作ろうの会part12

1 :ユーは名無しネ:2018/02/22(木) 19:59:10.81 ID:BAgIG5Hf4
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神7は永遠也

30 :ユーは名無しネ:2018/05/14(月) 23:25:45.81 ID:dHIi7vEJF

久々に来たらまだ続いていて感動!作者さんいつもありがとうございます。

50 :ユーは名無しネ:2018/08/05(日) 21:10:40.79 ID:Z+wvRkof0

『御印』は転生のように受け継がれる。印を持つ者が亡くなれば、次に生まれてくる者にそれが降りかかる。
その時、その体に子を身ごもっていたのが挙武の母と玄樹の母を始め、村の中に数人いた。玄樹の母は長い不妊治療の末にようやく子を授かり、その誕生を心待ちにしていた頃だ。
だが数分の1の確率で我が子が化け物として生まれてきてしまう…それが精神的に負担をかけ、みるみる体調が悪化していき、ある日玄樹の母は階段から転落してしまった。そして授かった子を流産してしまう。
結果的に、御印は挙武に受け継がれてしまったが玄樹の母はその流産が元で二度と子どもを授かることのできない体になり、その絶望は岩橋家全体を巻き込んでそれは見るに堪えないものだった。一時期は、地下にまで幽閉されるほどだったという。
錯乱状態にまで陥った玄樹の母は、いつしか命を絶ったおばさんの息子にそのやり場のない怒りを向けた。もう少し生きていてくれたら、こんな恐怖に支配されて流産することもなかったのに、と…
岩橋家から非難を浴び、村人からも疎遠にされたおばさんは山の中の古民家に籠る生活を始め、必要最小限にしか村内を行き来せず身を潜めるような生活を送っている。
「お母さんは…その時のことを今でも反省してるし教会で殆ど毎日懺悔の祈りを捧げてる…でも今更僕の家が何を言っても、おばさんにとっては自分の子を亡くしただけでも悲しいのにそんなことまでされて許せるわけがないよね」
「そうなんだ…それであんな不便なところに…」
「僕も家の者として正直、合わせる顔がないけど…でもそんなこと言ってられない。償いの意味でも今困ってるあのおばさんを助けなきゃ」
玄樹の瞳は憂いから決意に変っていた。岸くんも颯も頷く。
「やっぱ玄樹は医者に向いてるよ。困った人のために動けるんだから。この道で合ってる?」
雨はほんの少し勢いを衰えさせて、小降りになっていた。学校の脇の道を抜けると、山道らしいものが見える。あそこからおばさんの家に道が続いているらしく、玄樹はそこで車を停めるよう指示した。
「…僕はここにいるよ。多分、僕の顔を見たらおばさんは気分悪いだろうし…」
玄樹は目を伏せる。彼の気持ちは痛いくらいに伝わってきたが…
「行こうよ、玄樹くん」
颯がそう言った。
「え?」
「玄樹くんが車を手配してくれたから、俺たちはここに来られたんだし…その気持ちを知ってもらえばきっと気分が悪いなんてことはないと思うよ」
「俺もそう思う。行こう、玄樹」
岸くんが半ば強引に腕を引いて、戸惑う玄樹と共に古民家までの道を歩いた。道はこの雨でひどくぬかるんでいたから、それが目に付く。
「足跡がある…」
山道に、ぽつぽつと凹みが等間隔で刻まれていた。どうみても靴の形だ。
「ほんとだ。まだ新しいっぽいよね。誰か心配して来てくれたのかな?」
「…それは…ないと思う。あの人は村の誰とも関係を絶ってるみたいだから。…そうさせてしまったのはうちの家だけど…」
また瞳を曇らせる玄樹の肩を激励の意味で叩き、岸くんは先を促した。
ほどなくして立派な門構えが見え始める。こんな山の中に何故建てたのだろう…という疑問を抱く間もなく颯は駆け足でその先の石段を登っていった。
そこで岸くん達が見たのは意外な光景だった。

52 :ユーは名無しネ:2018/08/18(土) 18:23:42.64 ID:x62Yfa0vz

久しぶりに覗いて見たらまだ全然続いてて感動した…栗ちゃんいまどうしてるのかなぁ

14 :ユーは名無しネ:2018/04/01(日) 22:42:32.27 ID:F8iI2cowm

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

「挙武様、お食事のご用意ができました」
使用人の声に、挙武はもう昼過ぎであることに気付いた。何をしていたのか一瞬前のことなのに思い出せない。机の上には読みかけの本が置いてあるからそれを読んでいたのかもしれない。栞は挟まれていなかった。
思考が完全に中断してしまっていた。いや…何かに囚われていたからか…いずれにせよ自分の中で何かが揺れ動いていたことは確かだ。
食堂に降りると父がいて、大きな食卓の向こうですでに食事をしていた。挙武が入ってきたのをちらりと見やり、ワイングラスを傾ける。
「調子はどうだ?」
「特に変わりはないよ」
椅子に座り、注がれた紅茶を飲む。この村の特産品で血のように赤い色のお茶だ。苦くて好きではないが毎日の習慣になっているので渋々飲んでいる。
「岩橋医院に寄ってきたそうだな。そういえば、あそこの息子はもう医大に入ることはできたのか?」
「目下のところ二浪中だよ。本人に言うと気にするから」
「そうか。あそこには確か地震で生き埋めになったとかいう村の外の者がいたな。まだいるのか?」
「いるよ。神宮寺っていう面白い奴だよ。会ったことなかったっけ」
父は首を少しだけ傾けて記憶を探っているようだ。だがその糸は繋がらなかったらしい。
「今朝も会ってきたよ。ちょうど嶺亜に連れられて帰る時に。相変わらず先代の婆さんには頭が上がらないみたいで可笑しかった」
嶺亜の名前を出したことで、父の表情が少しだけ変化する。彼は持っていたワイングラスを置いた。
「嶺亜様は昨日体調を崩されたとさっき聞いたが…大丈夫なのか?」
父は嶺亜を「様」付けで呼ぶ。彼だけでなく、村の者は老若男女みんなそうだ。さすがに小中学校の時は教師もクラスメイトも「君」付けで呼んでいたが酷く不自然だった記憶しかない。
嶺亜は村の救世主だ。彼にしかできない背分教の重要な役目がある。だからこそ崇められ、敬われる。もっとも、それが本人には少々重荷のようだが。
「軽い熱中症らしいよ。昨日考え事をしたくて帰りの車を断ったって。でも今日はうちの車で必ず送るよう爺ちゃんが申しつけてる」
「そうか…。考え事とは…?」
「あいつも色々思うことあるんだよ。今、村に変な来訪者が来ててその連中の中に気に入った奴がいるらしい。それで昨日は機嫌が悪かったんだ。こんな用務さえなければそいつと仲良くなれたかもしれないのにってね。
さっきまでそこにいたよ。玄樹の家の廃病棟に泊めてもらってる。道祖神への道が塞がれているから帰れなくなったんだってさ」
「来訪者…?よりによってこんな時期にか」
父の瞳が複雑な色に染まる。挙武はそれに気付かないフリをした。

6 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:45:36.07 ID:rtFhNcmhO

「ギャハハハハハハハハハハ!!!なんだこのでっけー家!!挙武おめー何人家族だよ!!」
挙武の家の前で栗田が爆笑する。都会っ子の彼には馴染みのない大邸宅に大ウケで挙武の肩をばしばし叩いていた。もっとも、田舎でもこの規模はなかなかない。他の民家とは明らかに違っていて、門の前には大きな灯籠もある。
「生憎男だけの三人家族だよ。まあ使用人とか含めたらもうちょいいるがな」
「ほえ?男だけ?かーちゃんとかいねーの?」
なんでもあけすけに尋ねる栗田に、挙武は苦笑しながら警戒も抵抗もなく答える。
「母さんは小さい頃亡くなってね。妹もいたんだが同じ頃に亡くしてその頃から男だらけなんだよ。婆ちゃんは俺が生まれる前に亡くなった。羽生田家は女が短命なんだな」
「ふーん」
「挙武、確かに送り届けたから。じゃあね。行こっか栗ちゃん」
嶺亜は淡泊にそう言って栗田に向き直る。挙武はすぐに自分との温度差に気付いて指摘した。
「随分とまあ俺との態度に違いがあるな。一目惚れでもしたか?」
「栗ちゃんは挙武や神宮寺と違ってそういう嫌味言わないもん」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!どーもすみませんねー俺がモテて!!まー初めて会った時から思ってたんだよなー俺はれいあと仲良くなれるって!!」
栗田の大声に、羽生田家の使用人がなんだなんだと珍しそうに見て通り過ぎていく。挙武は皮肉めいた笑いを漏らした。
「嶺亜と仲良くなれるねえ…なれるもんならなってみろってところだな」
「もういいよね。また後で」
挙武をじろりと睨みながら嶺亜は栗田の手を引こうとした。
「へ?また後でってなんかあんの?れいあ?」
「…うん。だから栗ちゃんとは…4時ぐらいまでかな、一緒にいられるの」
「昨日も確かそんなこと言ってなかったっけ?用事があるとかなんとか」
「そう。挙武と二人で儀式の準備をしなくちゃいけないの。だから嫌だけどまたここに来なきゃいけない。でもその時は車を出してもらえるからすぐ終わると思うよ」
「嫌だとはまた随分だな。俺だって好きでお前と一緒に行動するわけじゃない」
挙武の皮肉が返ってくる。嶺亜は聞こえないフリをしたが栗田がパンと両手を合わせた。
「おめーらそんなに嫌なら俺が一緒に行ってやらあ!そしたらずっと一緒だもんなーれいあ!」
「…」
100%好意で栗田は申し出たのだが、嶺亜は戸惑いを見せた。だがすぐに元の涼しい表情に戻る。
「ありがとう、栗ちゃん。でもご心配なく。仕事だからね…そのへんは割り切ってるつもり。それに…よその人に手伝わせたらお父さんに怒られちゃうから…」
「まあせいぜい逢瀬の時を楽しんでくれ。じゃあな」
挙武は呆れて玄関の方に行ってしまった。その後ろ姿を見送ることもなく嶺亜も踵を返す。

62 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:34:37.82 ID:yPh9wWLKp

沈黙はすぐに破られる。呆れたような挙武の笑いが狭い部屋にこだました。
「何を言い出すかと思えば…バカバカしい。お前の血を啜れば俺の呪いは解ける?どこの三文ホラー小説だ。そんなご都合主義な展開じゃ読者からの反発を喰らって連載終了がオチだな」
全く取り合おうとしない挙武に、嶺亜は感情を抑えて自分の知った事実を話し続けることにした。笑い飛ばされるのならそれで構わない。とっくに自分の中のブレーキは壊れてしまっている。
「最後のページには、御印を持つ者が双子で生まれてきた場合のことが書かれていた」
それを知った日…偶然なのか、何かのイタズラなのか、玄樹の母が教会に懺悔をしに来たことを覚えている。悲痛な祈りを最後まで聞いていられず、嶺亜はその場から立ち去った。
「双子の片割れに御印があったら、もう片方がその「声」を聞くことができる。それだけじゃなくて、その血を啜れば呪いはその体から消滅する、ともあった」
「双子、か…この村では番を意味するものは酷く嫌われているがな。民話集にも記述があるからな。それがなんだって言うんだ?」
挙武がすっとぼけようとしているのを、嶺亜は無視してこう言い放った。
「僕と挙武は双子で生まれた…挙武は当然知ってるよね?」
挙武はすぐには答えなかった。だが皮肉にもそれが答えだと嶺亜は確信する。彼は知っている。自分と双子であることを。
どのタイミングで知ったのかは詳しくは知らない。嶺亜もまた知ったのは偶然だ。だがそれは偶然ではなく、いずれは知る運命だったのだと思う。
そうすると、自分が幼い頃から『声』を聞くことが出来たのも合点がいく。そのページに書かれてあることには何一つ矛盾はなかった。
「お前はいつ知った?」
ようやく、挙武からそんな声が放たれる。顎を少し引くその仕草は若干警戒している証拠だ。
「お父さんの書棚に、古いカルテがあったのを見たの。僕と挙武の名前が書かれてた。双子の出生記録だよ」
嶺亜はその時のシーンを回想しようとした…が上手くいかなかった。
「別に驚きはしなかったよ。むしろ、ああやっぱりね、って思った」
その続きを、今度は挙武が口にする。
「おかしな話だからな。出生の記録がどこにもないなんてな。この村の人間は全て岩橋医院で生まれる。仮に、村の外で生まれたのだとしても…生まれたばかりの赤ん坊を村外の者が抱えてやってくれば嫌でも誰かの目に付く。
しかし、それもない。だとするとお前はこの村で生まれたと考えるのが妥当だ」
「そうだね。病院は玄樹のうちしかないから、多分…病院ぐるみで隠されたんだろうね。何せこの村にとって双子は凶兆だからね」
「御印を持った俺を捨てることは出来ない。だから嶺亜、お前が教会に引き取られた。うちの両親を除けば玄樹の家と神父の爺さんだけがその事実を知っている。母が双子を授かったことは内密にされていたんだろうな」
嶺亜が推測したことを、挙武もそのまま推測していた。しかしそうした事実よりも何よりも、お互い感じるものがあったのだろう。何故か嶺亜は挙武に対して他人とは思えなかった。そして、本当の両親のことも。

71 :ユーは名無しネ:2019/12/27(金) 22:19:21.63 ID:pVMvhx/I/

お疲れ様です。本当に久しぶりに来ました。
ここにくると楽しいような嬉しいような切ないような気持ちになります…
また来ます!

2 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:43:20.15 ID:rtFhNcmhO

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

岸くんは目覚める。いつもは起こされてもなかなか起きないが、かなりの緊張状態で眠りについたため目覚めが早まったのかもしれない。相変わらず圏外の携帯電話で時間を確認するとまだ6時だった。
そろそろモバイルバッテリーも残量が少なくなっている。こんなことになると思っていなかったからこれしか持ってきていないのだ。
もう朝のはずだが地下室は日光が入らないから相変わらず暗い。それでももう夜が明けていると思えば多少恐怖心は薄らいで、電灯のスイッチがある場所まで難なく辿り着きそれを点けた。
「あれ?」
用を足そうとトイレに向かうとその隣にあるドアが開いていた。昨夜ここに案内された時には「ここは使ってない」とさらっと玄樹が案内した部屋だ。
「!!」
なんとなく覗いてみると、どうやら資料室のようで古びた書物が収められた棚が見える。そこに人が倒れていた。
「…ってなんだ谷村か…おどかすなよ…なんでこんなとこに寝てんの」
一瞬死体かと思って心臓が縮み上がったが、電灯の光が差し込んでそれが谷村だと分かると安堵がやってくる。寝返りをうったから死んでいるわけではなさそうだ。
その部屋にも電灯のスイッチのようなものがあったので、押してみると電灯が点いた。狭い室内が明るく照らされると谷村が眩しそうな顔をして呻く。
「うう…」
「谷村、谷村、起きなよ。寝ぼけてこんなとこまで入り込んでんだよ…たに…」
「うわぁああああああああああ!!!」
いきなり叫び上がって海老のように跳ねたもんだから、無防備な岸くんはよろけて本棚に背中を強かに打ち付けた。数冊の書物がバラバラと頭上に落ちてくる。
「いてて…ちょっと谷村…なんなの。なんだってこんなところで…寝ぼけたの?」
「…き…岸くん…?ここはどこ…私はだあれ…」
谷村はびっしょり汗を掻いて若干錯乱状態だ。なんとか落ち着かせると散乱した書物を一緒に片付け始めたが、何気なく手に取った一冊を谷村はじっと見ている。
「どしたの?なんか気になる内容でも?」
岸くんは覗き込む。かなり古びた書物で黄ばんでもろもろになっている。ページを慎重にめくらないとバラバラになりそうだった。
「背分教之伝…?」
「…」
なんだか奇妙な本だった。妖怪のような化け物が表紙には墨絵風で描かれており、中は文字だらけで古文のような文体だった。ページをめくっていると、起きてきた栗田の「何やってんのおめーら?」と呆れた声が飛んでくる。
「あん?背分教?れいあん家の教会の宗教か。俺には興味ねーわ。それより郁が腹減ったって喚きだしたから食いもんだしてもらおうと思って階段の上にあるドア開けようとしたんだけど、向こうから鍵かかってて開かねーんだよ。まるで監獄だぜ」
しかし栗田のぼやきと共に何やら扉の開閉音が鳴り響いた。廊下に出ると数人の足音が近づいてくる。

31 :ユーは名無しネ:2018/05/29(火) 08:42:58.66 ID:ndxxCKfQb

作者さんいつも面白い作品ありがとうございます!今回のもどうなるのかすごくわくわくどきどきしてます!作者さんの無理のないペースで今後も更新よろしくお願いします!れあくりジャスティスフォーエバー

16 :ユーは名無しネ:2018/04/01(日) 22:43:29.94 ID:F8iI2cowm

山を降りると丁度学校らしきものが見えたので岸くん達はそこに立ち寄ることにした。「背分村立上背分小中学校」と門扉に記されている。
「へー。いかにも田舎の学校〜って感じだな。木造の校舎なんてもう東京にはないかも。こんな立派な灯籠まであって…」
朝ドラに出てきそうな木造二階建ての校舎内を都会っ子たちは逆おのぼりさん状態で歩く。ちょうど夏休み中で校舎は全くひと気がない。
「でも、なんか不思議と懐かしい感じだよね。黒板とか机とかは俺たちのところとも変わりないし」
颯がそう言って皆が頷く。神宮寺はその頃の記憶が失われているので少しもどかしそうだった。
玄樹は廊下に刻まれた落書きの跡を懐かしそうになぞりながら
「僕が小学生の頃は小学生だけでも30人くらいはいたんだけど最近はその半分くらいみたい。こんな田舎でも少子化はわりと深刻なんだよね」
教室は2学年合同で1・2年と3・4年そして5・6年の教室を過ぎると端は図書室だった。児童書や絵本、図鑑などの類いが綺麗に納められている。ここの学校は書物を大切にしているようだ。
「あ…」
谷村がとある棚の前で歩を止めた。目に付いたそれを手に取っている。
「何それ?」
颯が覗き込むと古びたその本の表紙には「背分村民話集」とあった。
「あ、それさっきの資料館にもあったね。ケースの中に入ってたから読めなかったけど」
谷村は裏表紙に取り付けられてある貸し出しカードを見てみる。一人しか借りていなかった。
「嶺亜くんだ…」
鉛筆で、まだ拙い小学生の字で『5年 中村嶺亜 5/25』と記されている。
「こんな変わった本を小学五年生が読むんだね」
颯が感心しながら谷村と共にぺらぺらとページをめくる。殆ど字ばかりでたまに挿絵がある。まるで古文のように難解だった。
「嶺亜はあの通り色が白くて体があまり強くなかったから…体育の時に見学しなきゃいけない時は図書室で本を読んでたみたい。僕も人のこと言えないけど」
そう説明して玄樹は卒業アルバムが納められている棚に案内してくれた。生徒が少ないからほぼ毎年全校生徒が写真に写っている。玄樹の年は5人、嶺亜と挙武の年は6人の卒業生がいたようでわりと大きく映っている。
「へーこれが玄樹の小学生時代か。あんままじまじ見ることなかったけど今より色が黒いな。でも変わってねー」
神宮寺は興味津々で見ている。それを恥ずかしそうに玄樹はページを早めくりしようとしながら
「まだその頃は野球やってたし、けっこうスポーツ少年だったんだよ。あ、文集は恥ずかしいから絶対ダメ!」
「いいだろ減るもんじゃなし。おい隠すなよ。…ったくしゃーねー…じゃ、嶺亜と挙武の読んでやるか」
神宮寺は次の年のアルバムを手にする。そこには今より大分幼い嶺亜と挙武が映っていた。二人ともぎこちない笑顔だ。
「どれどれ…文集…お、あった」
挙武と嶺亜の卒業文は他の子どもと少し違っていた。まずは嶺亜だが『お父さんの跡を継いで立派な神父になって村の人たちを助けたい』と記されている。小学六年生にしては夢も幼さもない、現実的な文章だ。
挙武はなかなかに破天荒な文章だった。タイトルが『ハリウッドスターへの道』で、村のことは皆に任せて自分は世界進出をしてハリウッドの山に人面像が刻まれるくらいのビッグスターになるといったことがつらつらと書き綴られている。なんともスケールの大きな話だ。
「挙武らしいな。今度会った時からかってやろーか。あ、でもあいつはそれ以上のジョークで返してくるしな」
笑いながら神宮寺は文集を閉じた。
あちこち回って少し皆疲れ気味だったから、冷房の効くこの図書室で休憩をする。夏休み中だが卒業生の玄樹がいるから教員も快諾してくれた。
岸くんと郁は早起きだったからうとうととうたた寝を始めた。蝉の声が今だけは子守歌のように聞こえる。
颯は持ち前の体力と好奇心から学校内の探索に出かけていった。玄樹と神宮寺も少しの間は話をしていたが静かに寝息をたてる二人につられてまたうとうとし始める。
谷村だけは図書室の隅で手に取った本をずっと読んでいた。

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23 :ユーは名無しネ:2018/04/15(日) 21:04:36.48 ID:GMXSfNCzP

「小僧…飯は美味いか?」
ようやく神父から放たれたのは、そんな素っ頓狂な問いだった。栗田は一瞬、もうボケが始まっているのかと思ったがそんな感じはしない。ふざけているわけでも、はぐらかしているわけでもなさそうだということはなんとなく分かった。
だから真面目に答えた。
「まあ、まずくはねーよ。つっても俺はそんなに食いモンに興味ねーけど。郁だったらもっと美味い美味いっつって食うんだろうけどな」
「そうか。腹をすかしたことはないか?」
神父の問いはまだ続いた。栗田はその問いの意図が分からず、少しもどかしく感じたが我慢をする。そうしなくてはと本能的に悟った。
「さあ…あんまそういう記憶ねーよ。見ての通り俺はガリガリであんま食わねえから一食や二食抜いてもそんなしんどくねーよ。郁と違ってな」
「一食や二食か…では1日2日食わずとも平気か?」
「やったことねーからわかんねー。でも、さすがにこの季節食わずはともかく飲まずはしんどくね?毎日殺人的な暑さだしよ。そりゃれいあも体壊すわ」
「そうだな…この現代において、死にそうなほどのひもじさや渇きなど経験する者もおるまい。このわしとてそんな記憶はない。戦時中ですらどうにかなった。自生しているものを採ったり川に行って魚を捕まえたりもした」
「あん?それがどうしたんだよ。てか全然俺の質問に答えてねーぞ爺さん」
いよいよしびれを切らして、栗田は側に置かれたグラスの中の液体を呷りながら、いらつき気味にそう指摘した。
口の中に苦みが広がる。あの赤い紅茶だった。
神父は箸を置いた。そして栗田の目をじっと見つめながら今度はまるで昔話でも始めるような口調になる。
「昔…わしが生まれる遥か昔…このあたりは酷い飢饉にみまわれた…老人や赤ん坊…弱い者からばたばたと命を落としていったそうだ」
「それがなんだっつうんだよ」
「飢饉の原因は日照りによる干ばつだった。雨が降らなくては池にも水が溜まらん。川もほとんど干上がってしまっている状態では作物など育つはずもない。飲み水もままならん状態だ。唯一あった背分沼は銅を多く含む水のせいで役に立たん」
いい加減、栗田は苛立ちを押さえられなくなってきた。元々短気だし、神父の話を根気強く聞く忍耐力もない。箸を置いて怒鳴ろうと息を吸い込んだ時、神父は言った。
「だが小僧…雨を恵んでくれるという者がいたら、そやつにすがりたくはならないか?」
「何言って…」
「雨と引き替えに、村人全員の命と引き替えに、この村は呪いを受け入れた。これが背分教の興りだ」

つづく

17 :ユーは名無しネ:2018/04/01(日) 22:44:02.04 ID:F8iI2cowm

栗田の大きな笑い声が辺りにこだました。ちょうど通りかかった村人がそのけたたましい笑い声に眉をひそめて通り過ぎていく。
「栗ちゃん…?」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!れいあもジョークとか言うんだな!!!今のは完全に不意打ちだったわ!!おもしれー!!サイコー!!」
腹を抱えて爆笑する栗田の姿を、嶺亜は複雑な気持ちで見た。
そうだろう、何も知らない彼にとっては冗談にしか聞こえない。いや、冗談と受け取ってくれたことに安堵するべきなのかもしれない。
だから笑って「良かった。そんなにウケるなんて思ってなかった」と軽く済ますべきなのだ。少なくとも今の栗田は1ミリも嶺亜の言葉に疑念など抱いていない。
だけど、どういうわけか嶺亜にはそれができなかった。
「挙武にはね…この村にかけられた呪いが一身に降りかかっているの」
「ギャハ…おい嶺亜もういいって。十分今のだけでおもしれーからよ」
栗田はまだ笑っている。だけど嶺亜は止めることができない。
「放っておいたらその呪いが暴走して、村の人たちは皆殺しにされてしまう。ううん、村人だけじゃなくて全く無関係な栗ちゃんたちも挙武に殺されてしまうから…だから僕は栗ちゃんたちに一刻も早くこの村から出て行ってほしかったの…」
「れいあ…?おい、何言ってんだよ。俺の足りねー頭じゃわかんねーよ」
ようやく栗田は笑うのをやめて怪訝な表情を嶺亜に向けた。それでも嶺亜は続けた。感情の制御がきかなくなってきている。こんなことは初めてで、手が震えていることに今更気付く。
「栗ちゃんはあんまり深く考えてないかもしれないけど、他の人達はそろそろ変だって思ってるかもしれないよね。でも、僕の言ってることは冗談でもなんでもないの。全部本当のことだから…」
「分かんねえよ。なんで挙武がおめーらや俺らを殺すんだよ…呪いってなんだよ。そんなもんこの現代に本当にあんのかよ。そりゃそういうの岸たちは求めて来たんだけどよ、おめーの顔見てたら多分そんな気失せるだろうな」
自分が栗田に好意を抱いたのは、もしかしたらこんな突拍子もない現実離れした話をこうして真剣に話を聞いてくれることを無意識に感じていたからかもしれない…と嶺亜はこの時自己分析した。
栗田は石垣に腰掛けた。大笑いしている時と違って真面目に聞き入るその顔は精悍で、とても綺麗だった。
「俺は頭わりーからおめーの話100%は理解出来ねえだろうけど…れいあ、おめーが何に苦しんでんのかくらいは分かってやりてー。だから聞くよ。話してくれんだろ?」
嶺亜は目が熱くなる。栗田のその優しさが涙が出るくらいに嬉しかった。
だけど…
自分で言い出したことなのに、嶺亜は今更ながらに怖くなる。
村の暗部をよそ者に話すなど言語道断だ。しかも、それを村人から救世主と崇められている自分がしようとしている。そんなことはあってはならない。
彼らはこの村に何かがあると思ってやって来た。その好奇心に火を付けてしまったら、とんでもないことになるかもしれない。
もしかしたら、自分のしようとしていることはとてつもなく背徳的なことなのではないか…
「どーしたんだよ、れいあ?顔色わりーぞ。まだおめー疲れが…」
心配げに嶺亜を見る栗田のその端正な顔が揺れている。
目眩だ。
重力が一時的に失われ、次に気が付いた時には嶺亜は栗田に抱き抱えられていた。
「誰か!!嶺亜様が!!」
栗田ではない誰かの叫び声が遠くに聞こえる。そのまた更に奥深い場所で鳴る、聞き慣れた「声」に嶺亜は耳を塞いだ。

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28 :ユーは名無しネ:2018/05/13(日) 20:20:09.24 ID:lqvfDC7pb

「ちょっと何言ってるか分からないんだけど」
地下室でご馳走をたいらげながら、颯と谷村の話を聞き終えた郁はきょとんとした表情を見せた。
「そんな、この現代の日本に呪いとか化け物とか存在すんの?確かにこの村変だけどさ」
「俺もそう思ったけど、からかっている感じもしなかったし、それに…谷村のは立ち聞きだから嘘を言ってるとも思えないし…とにかく頭がこんがらがって、どうしようもなくて…岸くんはどう思う?」
神妙な面持ちで、味噌汁の入った器を床に置き、颯が岸くんに訊ねる。
「俺は…」
岸くんは炊き込みご飯のお椀を持ちながら、視線を上に向けた。
「言われてみれば、辻褄は合う気もするし、俺たちはそういうミステリーを追い求めてここに来たから…言ってみりゃこれは絶好の取材ネタだとは思うけど…」
お椀を置き、岸くんは腕を組む。
「もしそれが仮に真実だとしたら…俺たちの出る幕じゃないっていうか、ひた隠しにしているのも納得だし、そこをわざわざ曝いてまでどうこうっていう問題じゃないな…」
颯も谷村も頷く。これはもう好奇心の範疇を超えている。知ってしまった以上、自分たちは果たして無事に帰らせてもらえるのか、その心配を郁がし始めた。
「俺たちが知っちゃったってことは誰にも知られない方がいいかもな。玄樹と神宮寺にも。もちろん嶺亜と挙武にも。道が復旧するのを待って、何事もなく帰る。それが一番いい気がする」
「そうだね…それが無難だね…」
頷きながら、颯はおにぎりをかじる。岸くんはまだ考えていた。
「でもまだ分からないことが色々ある…挙武くんが背負った呪いはどうやって受け継がれていくんだろう。挙武くんの前はおばさんの息子だったみたいだけど…」
一番この企画に乗り気でなかった谷村が、この村の謎の解明に少し積極的な姿勢を見せている。岸くんがそれを問うと、彼は茶碗を置いた。
「…なんだか、嶺亜くんが少し気の毒になって…。もちろん挙武くんもだけど」
「気の毒?」
「うん。おばさんの話によると、化け物化するタイミングっていうのは一つの周期みたいなものがあって、それを読めるのは天文学を勉強した人…それが代々神父になるんだけど、その人だけみたい。
星の配置とか、巡りとかで占うのかなんなのか…おばさんにもよく分かっていないみたいだけど、そうらしいんだ。でも正確にそれを当てるのは難しいみたいで、だいたいはそろそろだろうって頃に隔離されて夜は皆戸を閉めて怯えて過ごしてた。
でも、嶺亜くんはそんなものを勉強する前から…小さい頃から不思議な力があったって。挙武くんが初めて化け物化した前日に、周りの大人に訴えて回っていたって。
でもその頃の嶺亜くんは今みたいに救世主として崇められる存在じゃなくて、教会に捨てられた孤児っていう扱いだったから誰も耳を貸さなかった。神父さんだけはちょっと変だなと思ってたみたいだけど…
でも、嶺亜くんの言っていたことが本当に起こって挙武くんのお母さんと妹が殺されてしまって…嶺亜くんがぴったりと挙武くんの動きを言い当てることができるのが分かってからほとんど呪いに怯える必要がなくなって、皆は安心したみたい」
「それがなんで気の毒なんだよ。むしろ英雄扱いじゃね?」
郁の問いに、谷村は浅い溜息と共に答えた。
「だって、自分がどうにかなってしまったらまた村の人たちは呪いに怯えなくちゃいけないし、挙武くんも誰を殺してしまうか分からない。その重荷が一身に背負わされているから…それって凄く気の毒な気がして…」
「そうだな…。挙武も自分がそうなってしまうのが分かっていてここで生活していくのも辛いだろうな。なんで呪いの主は挙武を選んだんだろう…」
岸くんは気付けばさっき言ったこととは裏腹に、自分がこの謎に深入りしてしまいそうになっていた。どうにも気になって仕方がない。
何かを変えよう、とかどうにかしようというつもりはない。ただ無性に放っておくことが出来なかった。
この村に住む玄樹もまた、何かしらの思いを抱えているのだろう。神宮寺もここへ導かれて暮らしている以上はその呪いとは切り離せないのかもしれない。

9 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 22:39:53.91 ID:N8r8sD48o

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

「ひえぇ…なかなかの眺め…」
最後尾を行く岸くんの腰はひけている。そろりそろりと歩いているつもりでも吊り橋は軋んだ。
資料館の次は弁当を作ってもらって、村のはずれにある背串岳という山にやってきた。雄大な自然美を堪能しながら登って行くと1本の吊り橋があり、渓谷を繋いでいる。そう高い山ではないがさすがに下を見ると高所恐怖症の岸くんは顔をひきつらせた。
「何ビビってんだよ岸くん!おもしれー!!」
先頭の神宮寺が大笑いしながら吊り橋を揺らすといよいよ岸くんは立っていられなくなり四つん這いになる。
「ちょっとやめろ!落ちたらシャレにならないでしょーが!」
「大丈夫だよ岸くん。この吊り橋は凄く頑丈に出来てるみたいだから多少揺らしたくらいではびくともしないよ」
「でももしかしたら今いきなりロープが切れて落ちちゃうかもしれないでしょ!安全第一!!」
「大丈夫?岸くん。手繋いでようか?」
見かねた颯が手を差し伸べたが、郁が笑いながら
「二十歳すぎた大学生がなっさけねー」
と指差すので岸くんはさすがにプライドを優先して、最後まで震えながら1人で渡りきった。地に足が付いている幸せを噛みしめる間もなく、
「これは…?」
吊り橋を渡り終えるとすぐに寂れた建物が現れる。ところどころガラスも割れていて中も薄暗い。一見してもう使われていないということはすぐに分かった。
「選鉱所だったんだよ。昔は銅が採れて採掘場も幾つかあったみたいなんだけど、もう枯渇してしまって廃屋状態なんだ」
中に入るとガラスの破片が散乱していて、それらを避けながら歩く。木製の階段を上がるともう壊れてしまって久しいであろうボロボロのストーブと灯油缶が数個転がっていた。その他にはここで使っていたであろう工具や道具の類いが乱雑に散らばっている。
中を進んでいくと「休憩室」とパネルが掲げられていた部屋があって、そこはどうにか寛げそうな雰囲気で机とソファがあった。埃っぽいが耐えられないほどではない。
「ここで休憩しよう。もうそろそろお昼の時間だし」
「さんせーい!!腹減ったー!!」
郁が率先しておしぼりを皆に配り、弁当箱を開けた。岩橋家の使用人が作ってくれた豪華な弁当を皆でつつき合う。
「けっこう活気があったんだね。銅を採掘したりお茶の葉を生産したり…」
麦茶を一気飲みしながら颯はタオルで汗を拭く。
「うん。けど今はこの通り寂れた何もない村だよ。紅茶の生産はまぁ今もまだあるけど」
「あるじゃん。あの奇妙な宗教。それだけでもネタになりそうだけど。なぁ、岸くん?」
もうすでに弁当箱を一箱たいらげてしまった郁が尋ねると、おにぎりをぱくついていた岸くんはうんうんと頷く。
「ま、ミステリー性はなくて残念だったけど、それでもけっこう非日常的な体験だったからね。これはこれで上手いことまとめたら面白くなりそうだし。後で嶺亜に背分教のことでも聞いてみよっかな」
「そういや栗ちゃんと嶺亜くん、今頃どうしてるかなあ」
颯の呟きに、サンドイッチを上品に口にする玄樹とトウモロコシを豪快にかじる神宮寺は2人で顔を見合わせる。

49 :ユーは名無しネ:2018/08/05(日) 21:09:41.82 ID:Z+wvRkof0

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

谷村が電子辞書片手に翻訳に勤しむ中、やることがなくなってしまった岸くん達はそれぞれの見解を出し合っていた。そんな中、颯が少し落ち着かない様子を見せる。窓の外を見やりながら何かぼそぼそと独り言を呟いていた。
「どしたん?颯」
岸くんが訊ねると、颯は「うん…」と力なく頷いてこう答えた。
「昨日のおばさんが気になって…。足を痛めてるから買い物とかにも行けないんじゃないかって…この雨だし」
「おばさん?ああ、昨日言ってた…」
「なんか買って持っていってあげようかな。電話も多分復旧してないだろうし…」
「けど颯、ここからだとけっこうな距離じゃないか?雨降ってるからマウンテンバイクでは行けないし…」
外は依然として強い雨が降っている。この感じだと今夜も降り続けそうだ。
迷う颯の背中を押したのは、意外にも玄樹だった。
「颯くん、行ってあげて。うちの車使ってくれて構わないから」
玄樹が手配した車を岸くんが運転して、玄樹がナビゲーション代わりに案内しながら村の店に寄って食料と湿布など適当な買い出しをすることにした。
「あ、そうだ。車があるなら玄樹くんちの病院まで診療に運んであげればいいんだ。そっちの方がいいかも」
村に唯一ある雑貨店で颯が湿布薬を手にしながら提案すると、玄樹が複雑そうな瞳を見せた。
「それは…多分無理だと思う。そのおばさんはうちの病院には来たくないだろうし…」
何やら事情があるらしかった。それを岸くんが問うと、玄樹はその大きな瞳を潤ませる。
「こんなことになった以上、隠しても仕方がないから話すけど…でもここだけの話にしてね」
「…?」
湿布薬と食料品をとりあえず買いこんで、岸くん達は再び車内に戻る。そこで玄樹は語った。
颯が出会ったおばさんの息子は『御印』の持ち主で10歳で覚醒した。その夜、異変に気付いた父親が噛み殺されて、母親であるおばさんは無我夢中で逃げて一命を取り留めた。
まだ10歳で、覚醒したてだったからそれができたがもう翌年にはそれが不可能であることが推測される。それほどまでに呪いの威力は凄まじく、人智を超えているという。
それから約10年、神父の読む星の動きで推測された覚醒の時期に毎年背分神社での儀式によって棺桶に入れられていたが、おばさんの息子はある日書き置きを残して背串岳から身を投じ、自殺した。
書き置きには「もうこれ以上化け物として生きたくはない。父さんの元に行きます」とあった。
おばさんは夫ならず息子までも呪いで失った。その悲しみは計り知れないが、悲劇はもう一つの悲劇を生むことになる。

64 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:38:39.06 ID:yPh9wWLKp

「…ふざけるなよ」
怒りに震えた挙武の声がやけに遠くに響いた。
それを認識する間もなく、嶺亜は胸ぐらを掴まれ壁際に追いやられた。
「俺にお前を噛み殺せと言うのか…?」
嶺亜は肯定も否定もしなかった。いや、出来なかった。もう自分でも自分の意思が定まらない。
そんな嶺亜を睨んだまま、挙武は皮肉めいた笑いを漏らした。
「俺はな、2,3年前に見たことがあるんだ。化け物化した自分の姿をな。村の数カ所に防犯カメラを取り付けて…その中の一つに見事に映ってたよ。深夜、村を徘徊する自分の姿が。言いたくはないが本当に化け物だった」
自虐が抑えきれない口調で、挙武はまくしたてる。
「お前も聞いたことがあるかもしれないが、俺は偶然この村に迷い込んだ、どこの誰とも知らない奴を一人噛み殺している。
村の外から来たらしいから、不運としか言いようがないがその死体の有様は言葉にならないくらい悲惨だったらしい。そんなのを目の当たりにしたらいくら嶺亜、お前でも自分の発言を後悔するだろうな」
「…自分勝手なのは分かってるよ。でも、もう僕は楽になりたい。もう嫌なの。僕は…」
その先を言おうとしたが、声が出なかった。頬に伝う液体がなんなのかを考えることすら叶わず、ずるずるとその場に腰を落とすしかなかった。
それでも挙武は許してくれなかった。
「断る!!俺はお前を喰いたくなんかない!!母さんを、妹を殺して今度は双子の兄まで殺せと言うのか?よくもそんなことが言えるな!!
そんなことをして、例え呪いがこの体から消えても俺は一生苦しむことになるんだ!!そんなことをするくらいなら…」
激昂した挙武の腕にこめられた力が、ふっと抜ける。掴まれた胸ぐらは離され少し息が楽になった…と無意識に嶺亜も呼吸を整えようとした時、
「俺は今すぐこの場でこの命を絶ってやる」
挙武の眼から、自分と同じものが流れていた。

つづく

48 :ユーは名無しネ:2018/07/22(日) 22:01:03.44 ID:Hw6SMDAgh

「れいあ、なんなんだよこれ?」
「…僕にもよく分からないけど、他の2冊と違ってるところと、意味ありげに背分神社の地下室に収められてたのが気になったの。地下室はまるで人目から隠すような作りだったし…」
「あんなところに地下室なんてあったとはな。俺も知らなかった」
挙武がそう言う。彼の説明によると、背分神社の中に入ることが許されるのは教会の人間と御印を持つ者だけで、後は破壊された棺桶の撤収のためと新しい棺桶の設置でその役割の人間が入るくらいだという。
勿論、村の子ども達は小さい頃から背分神社には決して立ち入ってはいけないと言い聞かされて育つし、そうでなくとも鬱蒼としたあの道に入りたいと思う者もいない。
「嶺亜、お前はいつそれに気付いたんだ?」
「去年だよ。挙武の御印が現れる少し前に神社の簡単な掃除をしとくようお父さんから言われたの。そこで変な突起物に足引っかけて転倒して…それが取れて変なくぼみが出てきたの。なんか…鍵穴みたいに見えて」
嶺亜は無意識に向こう脛のあたりをさすっていた。打撲したのはそのあたりであることを示している。
「前から神社の鍵が二種類あるのが変だな…って思ってて、使ってない方を試しに嵌めたら上手く噛み合って扉みたいに床が開いたの。開けたら階段みたいなのが現れて地下に続いてて…
その先にあれが小箱に収められてた。凄く古い箱だったから、もしかしたらここに収められてから初めて手に取られたのかもしれないって思って…」
「へえ…」
「変な言語で何か記してあるのが気になって、色々ここにある書物にヒントがないか調べてみたんだけど全く分からなくて。誰か翻訳できたら何か分かるかもって思ったんだよ」
「それはそれは…ご苦労なことだ」
挙武が肩をすくめて皮肉っぽく言うと、礼拝堂のドアが静かに開く。皆がそこに視線をやると、初老の身なりのいい男性がかしこまりながら立っていた。
「挙武様、お迎えにあがりました」
どうやら羽生田家の使用人らしく、二言三言挙武と言葉を交わして傘を差し出した。教会の前には車が停められない。細い小道があるからだ。
車が通れないくらいに細いが、マウンテンバイクなら十分可能だったから岸くん達は難なくたどり着いた。だが、車が乗り付けられないのは若干不便かもしれない。
「とりあえず俺は家に戻る。また明日な」
嶺亜の方は見ずに、挙武は神宮寺にそう言って礼拝堂を後にした。

つづく

53 :ユーは名無しネ:2018/08/22(水) 00:26:03.81 ID:zNDs3G3k1

作者さんありがとうございます。フィクションとはいえここの話を読むとあの頃の彼らを思い出して懐かしい気持ちになれるからこれからも無理のないペースで物語を書き続けてくれたら嬉しいです。また来ます

68 :ユーは名無しネ:2018/11/12(月) 02:51:46.16 ID:v4tJ/B6pA

作者さんおつかれさまです!のんびり待ってますね〜

60 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:31:07.29 ID:yPh9wWLKp

雨音に混じって、沈黙が耳を覆う。ただの無音ではなく、張り詰めた何かが確かに存在していた。
これに気付かないフリをして、棺桶に収まれば良かったのだと挙武はこの直後に後悔することになる。
「どうした?何か言いたいことでもあるのか?」
「…」
嶺亜の表情に変化はなかった。挙武の質問にはすぐに答えず、虚空を仰いでいるかのように天井に視線を送っていた。
もどかしかったが、挙武はまだ冷静さを保っていたからこんな軽口が突いて出る。
「彼らがあの外国語を翻訳できて、そこになんらかの道導が示されていたらもしかしたらこんな役目からは解放されるかもな。まあ無理だとは思うが、期待するだけならタダだからな」
挙武が意外だったのは、嶺亜の口からそれが発されたことだった。
「あの子たちにどうにかできるなんて、僕はこれっぽっちも期待してないよ」
迷いも躊躇いもない口調だった。そして驚くべき言葉が再び嶺亜から漏れる。
「僕は知ってるんだよ。呪いを解く方法を」
嶺亜の眼は、真っ直ぐに挙武を捉えている。冷たい絶対零度を感じさせる、一切温度のない瞳。ごく稀に見せる、嶺亜に余裕がない時の癖のようなものだ。挙武は知っていた。
「方法があるだと…?バカなこと言うな、そんなものがあるとしたら何故今まで黙ってた?それに、村の誰もそんな方法があるだなんて知るはずもない。神父だってそうだろう?第一、お前はどこでそれを知ったっていうんだ」
「去年、僕は地下室で民話集を拾った」
「それは知っている。そこに外国語で何か書かれていたんだろう。それがなんだって言うんだ。実はもう翻訳できているのか?」
嶺亜の声色は奇妙なくらいに穏やかだった。挙武は少し不気味に感じる。どうにも、さっきから嫌な予感が渦巻いている。さっさと会話を切り上げて棺桶に入った方がいいかもしれない、と薄々思っていると、嶺亜は言った。
「民話集の最後のページ…それを僕はちぎったから彼らは知らない。そこにこう書かれていたの。それはちゃんとした日本語だったから、翻訳しなくても僕には理解できた」
「最後のページ…?」
「それに気付いたのは今年に入ってからだけどね。外国語の方にばかり気を取られて、ちゃんと最後までページをめくっていなかったから」
ザア…と雨が屋根を叩きつける音が響く。
嶺亜ははっきりとこう言った。
「挙武が僕の血を啜れば、呪いは解けるよ」

.

55 :ユーは名無しネ:2018/08/26(日) 20:22:56.55 ID:Aohva5KEm

「ちょっとだけ時間いい?あ、帰りながらでもいいからさ」
話なら、玄樹の家にある神宮寺の部屋でも良かったと思うのだがどうやら彼は家にはいたくなさそうだった。やはり居候なので玄樹がああなってしまっては居心地が悪いみたいだ。それを素直に語る。
「…まあもう慣れたとはいえ、やっぱ俺はあそこの家には異物だからな。普段は玄樹が一緒にいてくれるからなんとも感じないんだけどよ…今はちょっと辛いわ」
神宮寺は自分が何故ここに来たのか、それまでの自分が何をしていたのかを覚えていない。彼の記憶は、この背分村で目を覚ましてからのほんの数年しかないのだ。
そのもどかしさを、頭をかきむしりながら吐露する。
「玄樹がいるし、俺はこのままでいいやと思ってるけど…こういう時に痛感するんだよな。俺の帰るべき場所ってどこなんだ、とか。俺を待ってる人がどんな気持ちでいるか、とかな」
「…そっか。そうだな…」
「なあ岸くん、憶測でもいいからなんで俺がここに辿り着いたのか一緒に考えてくんね?偶然辿り着くようなとこでも観光地でもねーし、俺はなんでここに来たのかな…」
神宮寺の瞳は、雨のそのまた向こうを見ていた。自分が何者なのか、どこから来たのか…思い出したいのにそれができないもどかしい思い。村の者ではないのにそこに同化しようとしてそれが出来ないことへの辛さ…
嶺亜たちとはまた違う形で苦悩を抱える神宮寺の肩を抱きながら、岸くんは教会までの道を歩く。皮肉なことに、この数日で少しずつ背分村の地図が頭に入りかけていた。
そして、突然にそれが閃く。
「…行ってみよう」
「え?」
神宮寺がきょとん、とした表情で岸くんを見ていた。
「神宮寺、お前が倒れてたっていうその…土砂崩れのあった現場ってどこ?」
「え…それは…道祖神の近くの…」
「その道に行ってみよう。通行止めかもしれないけど」
「でも、そこ行っても仕方ねーんじゃ…」
そう言った後、神宮寺は一瞬沈黙する。そして、何かを決意したような目を見せて頷いた。
雨で道はひどくぬかるみ、歩きにくかったが足早にそこに向かう。
もうほとんどバッテリーが切れかけの携帯電話で時間を確認すると、4時前だった。
雨が降っているとはいえ、いつこれがやむとも知れない。そうなると、日没前に安全な建物内に戻らないとそれこそ覚醒した挙武に襲われてしまうかもしれない危険があるから、できるだけ急いだ方が良さそうだ。
「おいコラお前たちどこへ行く?そっちは通行止めだ」
道祖神の近くにさしかかると、すれ違った村の人が岸くんたちに忠告した。百も承知だから適当に返事をすると、背後でこう怒鳴られた。
「この雨で地盤が緩んでるから土砂崩れ起こすかもしれねえぞ!!命が惜しかったら戻れ!!」
どうする?と岸くんは神宮寺と目を合わせたが、彼の眼は先へすすむことを望んでいるように見えた。
だが雨量が増しているのは確かなようだ。向かう手前に水路のようなものが見えて、そこに勢いよく水が流れていた。それを見ながら神宮寺がこんなことを呟く。
「この水路…水門が閉じられてるからほとんど使われてねえから普段は水なんて流れてねえのにこんなに水かさ増してる。確かにちょっとヤバげな雨だな…」
途端、辺りがフラッシュライトのように照らされる。雷か…?と思う間もなくゴロゴロと低い雷鳴が轟いた。
雨はともかく、雷まで鳴りだすと少々危険だな…と岸くんは思った。
「どうする?土砂崩れが起こったら危険だし、出直すか?」
「…」
神宮寺が黙ったのを、岸くんは自分の質問について迷ったからだと思っがそうではないようだった。

3 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:43:57.12 ID:rtFhNcmhO

「あ!!」
歓声をあげたのは栗田だった。それもそのはず、そこには黒服に身を包んだ嶺亜がいたからだ。その隣に変な老婆、そして後ろにボサボサ頭の神宮寺と見知らぬ同年代くらいの男がいた。
「れいあ!!どうしたんだよおめー!!なんでここに!?」
「栗ちゃん達がここにいるってお父さんから聞いたから。ちょうど近くを通りかかったからもう起きてるかなと思って」
栗田と話す嶺亜の表情は柔らかく穏やかだった。昨日はどこか冷淡で秘密主義的な印象を受けたが、今日は少し感じが違う。
「そーなんだよ!道が土砂崩れで塞がれちまっててよー。れいあんとこの教会が良かったんだけど爺さんがここに泊めろっつって。あ、わりい。爺さんじゃなくてれいあの親父だったな」
「神父様を爺さん呼ばわりとはばちあたりめが…!」
老婆が威厳をこめた声色でそうたしなめようとすると、嶺亜がやんわりと止める。
「よそから来た人にはただのお爺さんですから。でも良かった。まだここにいてくれて。昨日はああ言ったけど僕は栗ちゃんと仲良くなりたかったから、もう帰っちゃってたらどうしようと思ってたの」
「マジかよ!!おめーさえ良けりゃ俺はいつでもここにいるぜ!!こんな監獄みたいなとこでも別にいーし」
「随分と奇特なお客さんだな」
後ろにいた神宮寺の隣の男が皮肉めいた口調で呟くと、嶺亜は冷たい目で彼を見る。
「これが嶺亜の言ってたよそから来た人たちか。ようこそ背分村に。俺は羽生田挙武。まあよろしく」
挙武と名乗った男は友好的な態度で岸くんたちに歩み寄る。鼻が高く、エキゾチックな顔立ちですらりとしたスタイルの良さが際立っている。なんとなく上品さも漂っているからこんな田舎には若干似つかわしくない雰囲気だ。
嶺亜と再会してすっかりはしゃいでいる栗田とはよそに、岸くんと谷村が少し気になったのは老婆の嶺亜と挙武に対する物腰だった。
「嶺亜様、挙武様…せっかくいらしたのですからご朝食を召し上がっていって下さいませ。今用意させております。もちろん、この者たちも一緒に」
「いいんですか?ではお言葉に甘えて」
「ありがとうございます。いただきます。何も食べずに来たからちょっと辛くて」
「嶺亜様、ご無理をなさらないで下さいませ。昨日帰りの車をお断りになられたそうですが…このような炎天下の中お歩きになるのはお体に障りますから。今日は必ずお車でお帰りくださいね」
嶺亜と挙武は一体どういう位置付けなのか…老婆は二人を「様」付けし、かなり丁寧な接し方をしている。神宮寺には「嶺亜様と挙武様の分もお作りするよう厨房に言っておいで」と小間使いのように指示したのに…
確か嶺亜の家である背分教の教会はけっこうな権力を持っている風な感じを玄樹達が匂わせていた。それ故だろうか。嶺亜は教会の仕事を一人で取り仕切っているらしいから…
では、挙武はなんなのだろう。村長の息子とかだろうか。それともお金持ちの権力者の息子?何にせよ、二人は別格、といった感じを玄樹の家のリビングに通されて朝食を取る時にも受けた。
「ふうん。成程。大学のミステリーサークルか。どうりで変わった連中だと思った。神宮寺といい勝負だ」
挙武は陽気な性格でよく喋った。最初の印象こそ少しお堅い感じがしたが話してみると意外に面白い。特に変顔が傑作で、郁が飲んでいた牛乳を吹いて一時騒然としたくらいだ。
岸くん達が思った通り、挙武の家は祖父が村長を務めており、父親は村役場のお偉いさんらしくこの村一番の名家だそうだ。自身のことを「良く言えば帝王学を勉強中、悪く言えばほぼニート」と語り、その言い回しがなんとも愉快でダイニングは笑いに包まれる。
食事を済ますと嶺亜は栗田に「挙武を家まで送り届けてくるからそれまで待ってて」と言ったが彼は同行を希望した。岸くんたちは玄樹たちにこの村の案内をしてもらうことにした。道が復旧するまでやることがないのだ。
「んじゃなおめーら。また後でな」
るんるんと機嫌良く手を振る栗田とそれを微笑みながら見つめる嶺亜、興味なさげに欠伸をする挙武…その三人の後ろ姿を眺めながら颯が独り言のように呟いた。
「送り届けるって…挙武くんって一人で家に帰れないのかな?」

.

21 :ユーは名無しネ:2018/04/15(日) 21:03:08.28 ID:GMXSfNCzP

通りがかった村人が大声で誰かに知らせてくれたおかげで、すぐに車が乗りつけて倒れた嶺亜を教会まで送ってくれた。栗田は嶺亜を運転手と二人で抱き抱えて彼の部屋のベッドまで運んだ。
教会にはすでに医者とおぼしき白衣の中高年男性が神父と共にいて、すぐに診察にあたる。そう言えば玄樹の家は病院だった、と栗田は思い出す。医者は玄樹の父親だろう。
「…お疲れが相当溜まっているのだと思います。本日の背分神社へのお見送りは…無理かと」
「しかし、嶺亜以外に誰がやる?」
「…挙武様には一人で行っていただくしか・・・神父様はお足が悪いですし、他に出来る者もいない。仕方がないでしょう」
「仕方がない、か…」
神父と医者の会話を、栗田は横目に聞く。嶺亜のことが心配だったが「安静にさせるように」と部屋を追い出されてしまった。
それから栗田には分からない会話を神父と医者は数分ほどして、栗田を病院まで送ると医者が言った。だが栗田は首を横に振る。
「れいあが心配だから俺、ここに残る。いいだろ爺さん?」
「いかん。お前は岩橋医院へ戻れ」
「なんでだよ?爺さんれいあの看病できんのかよ?あんたも具合良くねーんだろ?だったら俺がいた方が良くね?」
「いらん心配をするな。老いぼれだが病人の看病くらいは出来る。さっさと行け」
栗田は素直な性格でそうしつこくないのが長所だと自分でも自覚しているが、今回は引けなかった。
「やだよ!こうなっちまったのは俺のせいでもあるし、れいあに申し訳ねー。あいつが元気になるまで側にいてやりてーよ」
「嶺亜のためを思うなら、素直に病院へ戻れ」
「やだっつってんだろ!ここでれいあ見捨てて行くくらいなら腹かっきってやらあ!」
啖呵を切ってみたが、神父は揺るがない。依然として刺すような鋭い眼光を栗田に向けている。
睨み合っていると、背後でドアの開閉音がした。振り向くと嶺亜が真っ青な顔色でそこにもたれて立っている。
「栗ちゃん…ゴメンね、僕は大丈夫だから」
「大丈夫じゃねーだろ!死にそーじゃねーかよ!おい医者のおっさん、れいあにどんなもん食べさしゃいーのか、どうやって看病したらいいか教えてくれ。俺がれいあを看るからよ!」
「しかし…・」
医者も戸惑っている。だがややあって神父のほうをちらりと見やるとこう提案した。
「…彼に任せてみてはいかがでしょう。嶺亜様には一刻も早く回復していただかなくてはなりません。…失礼ながら、神父様には負担が大きすぎます。見たところ、彼は嶺亜様に献身的なご様子ですからきちんと言いつけを守ってもらえば…」
援護射撃が飛んで、それまで頑として栗田の滞在を許さなかった神父が思案を始めた。
そして低い声で栗田にこう言う。
「小僧、お前…わしが今から言うことを守れると誓うか?」
「誓う誓う!!なんでも言えよ!!なんなら掃除でもなんでもするぜ!!」
挙手しながら威勢良く誓うと、神父は浅い溜息をつく。
「そんなもんはしていらん。一つだけ、ここから一歩も外へ出てはならん。窓も開けてはならん。それだけは絶対に守れ。いいな?」
「おう!!あ、おっさん、岸たちに俺ここにいるって言っといてくれよ。医者ってことは玄樹んちの親父だろ?」
栗田は快諾して、玄樹の父である医者に言付けを頼んで看病の方法をメモした。栗田だけにやらせるのは不安だったのか、それから少し経って村人たちが調理された食べ物や看病に必要なものを持ってきた。親切な奴らだなあと純粋に栗田は感謝する。

33 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 21:56:31.19 ID:rNv+spPDG

凄まじい現場だった、と誰かから聞いたことがある。駆けつけた麓の町の警察官も、まさか5歳の子どもがやったとは夢にも思わない。金銭目的の通り魔か異常者の犯行だと判断され、未解決事件のままだ。
化け物化した挙武は今でこそ夜じゅう徘徊をするが、当時は覚醒の時間は短かったと推測される。玄関先で倒れるように眠っているのを帰宅した父親が発見した。口の周りにはべっとりと血が付着していたという。
星の出ている夜の間…化け物化した挙武はこの村を徘徊し続ける。誰もその目に触れぬよう『御印』が現れる期間は日没前から締め切った建物の中に籠り、震えながら夜明けを待つ。
嶺亜のこの不思議な力が発覚する前は、代々天文学の知識に長けた神父の一族が星の動きを見ておおよその見当を付けてその時期を村の者に告げていた。そうして一定期間、『御印』を持つ者は日没前に背分神社の棺桶の中に入るという儀式を繰り返してきた。
挙武の前は村の外れに住む母と子二人暮らしの子だったと聞く。最も、『御印』は転生のように受け継がれるから印を持つ者同士が出会うことはない。嶺亜も生まれる前のことだから詳しくは知らなかった。
『化け物として生きたくはない』
そう言い残して、挙武の先代は背串岳の橋から身を投げた。
しかし迫害があるわけではない。むしろ、『御印』を持つ者は村を救う存在として敬いの対象でもある。それがなくてはこの村はとっくの昔に干上がって全滅だったからだ。その意識はこの現代においても村人の中に根付いている。
何故、呪いの主は嶺亜にこの『声』を授けたのか…
幾度となく考えてみたが、分かるはずもない。教会の前に捨てられていた自分がこの特殊な力を授かったのもまた呪いの主の意向なのか…父は独身を貫き、神父の後継者がいなくなることを村の人たちは畏れていたから嶺亜のこの力が救いだと聞かされて育った。
「呪いに抗うことは許されぬか…」
いつかの夜に、父が祭壇の前で誰にともなしにそう呟いたのを嶺亜は聞いたことがある。
断ち切ろうとしても断ち切れぬ、何か強い糸がこの村にはからまっている。『御印』が転生で受け継がれるというのもまたその糸のせいだろう。自身が命を絶ってもまた、『御印』を持つ者が現れる。無限のループ…
ならば自分もまた、断ち切れぬ糸に絡みつかれた存在なのだろう、と嶺亜は思う。
その糸を、少しでもほぐしてくれる人が今扉の向こうにいることに感謝するべきなのかもしれない。それで我慢するべきなのかもしれない。
だが自分の中でもう、そんな妥協が出来なくなっていることに嶺亜は気付いていた。
「…」
ベッドと壁の隙間に落ちていた本を拾い、書棚にそれを戻して嶺亜は部屋を出た。

.

24 :ユーは名無しネ:2018/05/12(土) 01:53:10.35 ID:8CFkU4kXg

パート12!!作者さんいつもありがとう!
ついにセクバからデビュー組が出るね、そしてれあたんグループ結成おめでとう!!

41 :ユーは名無しネ:2018/07/01(日) 20:50:10.33 ID:XSg4nzkjF

「ギャハハハハハハハハハハ!!!やっぱおめーらもれいあのこと気になって心配してんじゃねーかよ!!まー安心しろ、この俺の介抱でこの通りだ!昨日村の奴らが持ってきてくれた食いもんがまだまだあっからおめーらも飯食ってけよ!!」
「ちょ…栗ちゃん…」
嶺亜が面喰らっているのと同じく、挙武も神宮寺も戸惑いを見せる。
「おい冗談もほどほどにしろよ。なんで俺が嶺亜と…」
「いーってことよ!!爺さん、いいよな!?あんだけの食いもん俺らだけじゃ食いきれねーよ。郁がいれば別だけどよ!ギャハハハハハハハハハハ!!!」
半ば強引に、栗田は父の了承を取り神宮寺と挙武を昼ご飯に招き入れた。身軽だからなのか、てきぱきとした動作で電子レンジと鍋を操作し、瞬く間にご馳走をテーブルの上に並べる。その姿を嶺亜は穏やかな心で見た。
挙武と神宮寺と一緒に食事なんて…と辟易したのは一瞬で、すぐに栗田の持つ独特な明るい雰囲気に気持ちが和んでいく。
それは神宮寺と挙武も同じなのか、初めはすぐれなかった表情が嶺亜と同じように柔らかくなっていった。
「ホント変ってるよなお前ら。まあだからこんな村にチャリなんかでやってきたんだろうけどな」
肉じゃがをつつきながら、神宮寺が呆れ半分、面白半分に呟く。
「岸くん達は朝からなんか地下室に籠ってるしさ。あんだけこんな監獄みたいなとこはイヤだってぼやいてたのに」
「あ?岸たちが?へーどうしたんだろうなー。谷村なんかあそこに入るとき超高速自我修復するくらい嫌がってたのによギャハハハハハハハハハハ!!!」
「自我…?確かに変った連中だな。チャリなんかで来られる道があるというのもな。道祖神の道でも車かバスが必須だ。途中、ひどい悪路もあるし峠道もあるからな」
「だからそっちからじゃねーってギャハハハハハハハハハハ!!!途中までは車で来たしよ!それにおめーも充分変ってるぞ、挙武!!呪いにかけられてんだろ?」
挙武と神宮寺、そして嶺亜は同時に口の中に入れていた食べ物を吹きそうになる。神宮寺なんかは激しく咳き込んだ。
嶺亜は父が驚きもせず冷静に味噌汁をすすっているのを見て、もしかしたら自分が倒れて寝ている間に栗田と話したのかも知れないと推測した。
それは当たっていた。お椀をテーブルに置くと父はシンプルに呟いた。
「昨日話した。そやつは悪い奴ではないと判断した」
だがその前に話したのは自分だ。どうしてあんなことをしてしまったのか…今考えても、自分の中で何かが狂っていたとしか思えない。倒れる直前だったから正常な思考が出来なくなっていたのかもしれない。
だから父が栗田に話したというのは驚きだった。自分ならず、何故彼もまた話そうという気になったのか…

42 :ユーは名無しネ:2018/07/01(日) 20:50:39.08 ID:XSg4nzkjF

「ギャハハハハハハハハハハ!!!まー安心しろ!俺は岸たちと違って別にミステリーにも呪いってヤツにも興味ねーからよ!!しゃべんなっつーんならしゃべんねーし」
あっけらかんとした栗田に、挙武も神宮寺も呆気に取られる。確かに、栗田にこの村の秘密をどこうしようなんてつもりは毛頭なさそうだ。それは彼の屈託のない瞳を見ていれば分かる。あるのは純粋な興味だけだろう。だからこそ父も話したのかもしれない、と嶺亜は思った。
「けどよー、なんだってそんなモンと代わりに雨降らせたんだろうな。昔のヤツは考えることわかんねーな」
栗田は味噌汁をすすりながら呟く。あけすけな態度に、挙武は浅い溜息だけをつくと開き直ったように答えた。
「俺も聞きたいくらいだ。まったく、とんだ厄介なモノを押しつけてきたものだ。一体どこのどいつなんだろうな。タイムマシンがあったらぶちのめしたいくらいだ」
挙武がこの調子なので、神宮寺も警戒心を解いて煮魚を口に入れながら自分の見解を話し始めた。
「俺は玄樹から聞いた話しか知らねえけど、元を辿ればなんか糸口が見つかりそうな気がすんだよなー。でも俺、勉強嫌いだし、玄樹も受験勉強以外に時間割いてる余裕なんかねーだろうしな」
そこまで言って、神宮寺はバツが悪そうに頭を掻く。
「…昼飯ここで食うっつったら玄樹のヤツすんげーむくれてたから、帰ったらご機嫌取らねーとな」
挙武が可笑しそうにふっと笑う。
「相変わらず尻に敷かれているな。姉さん女房には敵わないか」
「うっせ。一日勉強漬けの日はちょっとナーバスになるから配慮が必要なんだよ」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!玄樹は医者より観光ガイドの方が似合ってるって郁たちが言ってたぜ!やりたいことやるのが一番だよギャハハハハハハハハハハ!!!」
「そうもいかねーよ。村で唯一の病院だから後を継ぐ奴がいなきゃ皆が困るだろ。そりゃ俺も時々玄樹に言うけどよ。「医者になりたい」ってより「医者にならなきゃ」って感じだしな」
嶺亜は知っていた。玄樹は岩橋医院の本当の跡取りではないことを。
それを玄樹本人から聞いた訳ではない。何年か前、礼拝堂で父と玄樹の父が話していたのを偶然聞いただけだ。
玄樹の母は不妊治療の末授かった子を流産してしまい、二度と子どもが出来ない体になってしまった。その時の落ち込みようは酷かったらしく、精神的にも追い詰められて暫く外に出ることもままならなかったほどだという。
そんな時、玄樹の母の親友が病死し、乳飲み子だった玄樹が岩橋家に引き取られた。
玄樹の母は親友の忘れ形見を本当の我が子のように慈しみ、可愛がった。そのことで精神も立て直して岩橋家にも笑顔が戻る。玄樹はまさに岩橋家にとって救いの子だった。
幼い頃の記憶を辿ると、玄樹は控えめで優しい性格の中にも一貫した信念めいたものがあったと嶺亜は感じていた。嶺亜にはない感情を彼は持っている。
両親への感謝の気持ち…それは血のつながりなど全く意味がないものだと思わせるほどに無償の愛だ。
それがあるから、玄樹は優しいんだなと嶺亜は思っていた。
だけどどこかで、玄樹もまたほんのわずかな何かしらの不安に晒されているのだろう。それはさっき神宮寺が言っていたように「医者になりたい、じゃなくて医者にならなきゃ」という義務感がそうだ。
「さ、これ食ったら帰らねえとな」
炊き込みご飯を一気に口の中に放り込みながら神宮寺は言った。挙武はと言うと、栗田と変顔にらめっこを繰り広げている。
平和な風景の中、何気なく外を見やると厚い雲が空を覆い始めていた。

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40 :ユーは名無しネ:2018/07/01(日) 20:49:36.14 ID:XSg4nzkjF

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

栗田の献身的な看護のおかげで、嶺亜は昼近くにはもう殆ど体調が普段通りに回復していた。やはり寝不足が一番いけなかったのだろう、12時間以上寝ると大分すっきりとしてきた。
それに…と嶺亜は目の前で大きな声で笑いながら話す栗田を見て思う。
「栗ちゃんが側にいてくれたおかげで、元気になれたよ。ありがとう」
それは本心から出た言葉だった。
この村に、こんなに屈託のない笑顔で笑う者はいない。皆、どこかしら心に憂いを秘めている。それは大昔から根付く呪縛のせいだ。ごく狭い、閉鎖的な中で何かに怯えながら暮らし続けた弊害は、人の感情にこびりついて取れない黴のように畏れを抱かせていた。
「ほえ?なんだよ急に照れるじゃねーかよギャハハハハハハハハハハ!!!まーなんつーの?俺とれいあはこうして親友になる運命だったっつーの?岸が妙ちきりんな企画持ち出す前からこうなるこたー決まってたんだろーなーギャハハハハハハハハハハ!!!」
「運命…」
そんな運命なら、大歓迎だ。もし神様というものが存在するのなら…この運命だけは離したくはない。そう強く願わずにはいられなかった。
「今日は行けそうか?」
狭いリビングの中で栗田の声はよく響く。耳の悪い父が少しうるさそうに離れて書物を読んでいた。
「うん、大丈夫だと思う」
挙武になんて嫌味を言われるだろう…と頭によぎったが、栗田の顔を見るとどうでも良くなる。
ちょうどその頃、チャイムが鳴った。
「俺が出てくらあ!れいあは休んどけよ!」
栗田がそう飛び出して、その数分後に挙武と神宮寺を連れてきた。意外な訪問客に、嶺亜は飲んでいた紅茶のカップを落としかける。
「挙武…?神宮寺…?なんで…」
「俺はババアがお前の様子を見て来いって言ったから仕方なく来ただけだ。挙武には途中で会った」
ぶっきらぼうに言い放って、神宮寺は挙武の方を見る。その挙武は、嶺亜の問いに答えるより先に、リビングの隅で鋭い眼光を光らせている父に頭を下げた。
「ご無沙汰してます」
「…今朝はすまなかったな。嶺亜の体調がすこぶる悪くてな。だがそこの小僧のおかげで今日の背分神社への見送りは出来そうだ」
それだけ答えて、父はまた書物に視線を戻す。挙武は一礼だけして嶺亜に向き直った。
「思ったより元気そうだな」
「何?嫌味言いに来たの?」
「一応心配してやってるんだ、これでも」
しかし挙武の顔は半笑いだ。ここから先は何を言ってもからかわれるだけだということを熟知していたから、早々に話を切り上げて帰ってもらおうかと考えていると一際大きな栗田の笑い声が響いた。

29 :ユーは名無しネ:2018/05/13(日) 20:20:38.73 ID:lqvfDC7pb

「…あいつら、いい奴だよな」
今日一日を振り返って、玄樹と神宮寺と昔からの友達のように遊んだことを思い出す。屈託のない笑顔の向こうに憂いを含ませた玄樹の表情、それを包み込もうとする神宮寺の気遣い…
そして今朝会った挙武と嶺亜のそれぞれの顔を、岸くんたちは思い浮かべていた。
「…まだ途中しか読めてないけど…ここに載っているかもしれない」
谷村は一冊の古びた本を手にしていた。小学校の図書室にあった『背分村民話集』だった。気付いたら手に持ったままだったらしい。
そこで岸くんは思い出す。
「谷村、今朝お前が寝てた部屋にもそれに似た本なかった?変な妖怪みたいなのが表紙の」
「あ」
二人でトイレ横の倉庫に行くと、それはそこにあった。谷村は読みかけで話しかけられてそのまま棚の端に戻したのだ。
「これにも何か記してあるかも…」
「なあ、お前らそれ知って何になるんだよ。今さっき当たらず障らずが一番いいって言ったじゃん。…ったくしゃーねーなー」
郁は焼き鳥の串をむしゃむしゃやりながら岸くん達が「他にも何かないか」と棚の書物を漁るのに加わる。そして颯も、
「岸くんたちがその気なら…俺も手伝う。あのおばさんもどこか悲しそうだったもんね。足が痛いのに俺にお茶淹れようとしてくれて…」
「本はじゃあ俺と郁で探す。頭いい二人は二冊の本を手分けして読んで」
岸くんの提案で、二手に分かれてその日は夜遅くまで背分村の謎についての解明作業が進められた。
携帯電話のバッテリーも半分になりかけた頃、今が何時なのか分からなくなっているうち谷村が本を読んでいた手を止める。
「どうしたの、谷村?」
「声が…」
「え?なんの声?誰の?岸くん?郁?」
「違う。そんなんじゃない…昨日も聞こえてきた。変な唸るような声…」
言われて、颯は耳を澄ます。だが谷村の言うような音は聞こえない。
「俺には聞こえないよ?ここは地下室だし、外部からの音はよっぽどじゃないと聞こえないだろうし…声なんて聞こえるかな…」
「そうだよな…でも…」
落ち着きなく視線を彷徨わせ、谷村は戸惑っている。颯は、そういえば谷村は初日もそんなこと言っていたっけ…と思い返す。
「谷村、耳の疾病かなんかじゃないの?」
「え…そうかな…それは怖い…でも昼間とか朝は聞こえないんだよね。しかも、ここに来てからだし…」
「うーん…ストレス?谷村帰りたいってずっと言ってるしここに入るのも凄く嫌がってたから」
「そっか…ストレス…あ、でも今日はまだ栗田に蹴られてないからストレスもそんなに…ここにもちょっとだけ慣れてきたし」
「そういや、栗田大丈夫かな?嶺亜くんの看病してるんだっけ。ちゃんと出来てるかな」
そっちの心配もあったがとにかく今は本を読み進めることだ。颯と谷村がせっせと文字を追っていくうち、岸くんと郁は幾つかの関連性がありそうな書物を見つけて持ってきた。

つづく

4 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:44:34.36 ID:rtFhNcmhO

玄樹と神宮寺は村の郷土歴史資料館に岸くん達を案内してくれた。といってもそんな立派なものではなく古民家を改装したごく小さなもので、玄関先には例のお守りのオブジェと控えめな木製看板に「背分村郷土歴史資料館」と彫られている。
「村ができたのはだいたい江戸時代初期って記されてる。たまたま山を彷徨ってた麓の村の人が赤い葉の群生を見つけて…村に持ち帰ってお茶として飲んだら漢方薬みたいな効果があって、それから栽培するために人が移り住んでいったんだって」
まるで学芸員のように玄樹はすらすらと分かりやすく説明してくれる。医者より合っているかもしれない、と岸くんは思った。
「背分村の名前の謂れは、馬の背のような渓谷を分けてできたような地形だからって言われてるんだ。大正時代までは上背分と下背分って地区に分かれてたそうだけど不便な下背分はだんだん人が住まなくなって廃れていったって」
「あ、そういや食堂の名前が上背分だったな」
郁がおにぎり(岩橋家の朝食の残り)をぱくつきながら呟くと、玄樹が頷く。
「そう。上背分そばってメニューがあったでしょ?あれは蕎麦の実を上背分で栽培していたからなんだよ」
「あー!あのそば上手かったな。大胆な盛り付けもされてて食いごたえあった。今日の昼飯もあそこで食いたいな!」
次に玄樹はショーケースが並んだ部屋に岸くん達を案内した。
「農耕が始まると色んなものが発掘されて…ほら、これなんかミステリー好きな人は興味あるんじゃない?」
ケースの中に入った奇妙な土の盤を玄樹は指差す。その盤には暗号のような文字が綺麗に整列されて彫られていた」
「何これ…何が記してあるの…?」
岸くんはケースにかぶりつきで覗き込む。象形文字のような羅列はなんとも謎めいている。
「分かんない。紙ができる前のものかもしれないって。だとしたらこの村の歴史はもっともっと古いかもね」
「なんだろうね、これ…谷村分かる?」
颯の問いかけに、谷村は首を捻るだけだった。全く分からない。
「二階には写真資料室もあるよ。こっち」
階段を登る途中の壁に奇妙な鳥が描かれた水彩画が飾られていた。かなり崩した行書で「姑獲鳥」と記されている。
「それはうちのお母さんの知り合いの人が描いたんだ。なんでも、子どもを攫っていく鳥だとかなんとか…」
「へえ…それがなんでここに飾られてんの?」
「さっきの資料室に納められてた背分村民話集に似たような鳥が出てきてるからだって。まあこじつけだね。何もないと寂しいと思ったのかな」
「ふうん…」
なんだか不気味な絵だから皆は特にまじまじと見ることもなく通り過ぎる。谷村だけが少し見入っていたがすぐに皆の後を追った。
写真資料室は白黒の写真から始まり、色褪せたカラーから最近取ったであろうものまで色々あった。鉱山を掘っているところや農耕栽培の様子、村の小学校の行事やら自然、建物、人…

57 :ユーは名無しネ:2018/08/26(日) 20:24:13.04 ID:Aohva5KEm

仮眠を取って再び目覚めると、午後4時を回っていた。枕元にはやはり冷えた水の入った水差しが置いてある。栗田がしてくれたのだろう、有難く思いながら嶺亜はそれを一口呷った。
窓の外には豪雨が流れている。台風が接近しているというニュースは聞かないが、いつまで続くのだろう…少し気が滅入った。
リビングに入ると、ソファで静かに書物を読む父と携帯電話の画面を見ている栗田がいた。
「お、れいあ目ぇ覚めたんか。気分どう?」
画面から眼を離して栗田が明るい声で問う。
「ありがとう。もうほとんど大丈夫だよ。他のみんなは?」
「おう。岸は神宮寺と玄樹を車で送りにいってまだ戻ってこねえけど、谷村と颯と郁は礼拝堂にいるぜ。翻訳がどこまで進んだかはまだ分かんねえけど」
「そう。聞きに行ってこようかな」
「そろそろ支度をせんといかん。この天候だ。背分神社への道は相当に悪くなっているから時間がかかるかもしれん。早めにしておくことに越したことはない」
父が書物から眼を離してそう忠告した。確かに、かなり天候が悪化しているようだ。雷鳴のようなものも聞こえる。窓の外は一面、叩きつけられる雨粒で覆われていた。
「おいおっさん、こんな天気でも行かせるのかよ?れいあ体調わりーし、今日も挙武一人で行ってもらえば良くね?」
栗田が父にそう提案するが、首は縦に振られなかった。嶺亜には分かりきっていたことだが…
「いかん。何があろうとも背分神社への見送りは教会の者がしなくてはいかんしきたりだ。昨日は例外中の例外だ。台風が来ても行ったことがあろう、嶺亜?」
「うん。分かってるよ」
父にそう返して、嶺亜は栗田に向き直る。
「ありがとう栗ちゃん、心配してくれて。もう殆ど大丈夫だし、それに雨の日の方が暑さが和らいでるから僕にとってはその方がいいの。行きも帰りも車だし、林の道をちょっと歩けばいいだけだから」
「けどよ…」
渋る栗田に、嶺亜は素直な今の気持ちを伝えた。自分でも驚くほど自然にその言葉が出る。
「でも、車には同乗してくれると嬉しいな。挙武と二人きりで車に乗るの、実はあんまり好きじゃないんだよね。それに…栗ちゃんが車で待っててくれたら励みになるから」
そして嶺亜は父に確認する。
「いいよね、お父さん?」
「…」
何か言いたげな眼をしていたが、嶺亜の気持ちを察したのか父は書物に再び視線を戻し、こう返した。
「今日だけだ。明日はいかん」
「ありがとう」
「分かったぜれいあ!でもそのナントカ神社には付いて行っちゃダメなんだよな?心配だけどよ」
「良かった。でも大丈夫だよ。これよりもっと天気の悪い日とかもあったから」
嶺亜は部屋の時計で時間を確認する。挙武の家から彼を乗せた車が来るのは…恐らく一時間後くらいだろう。
その時間通り、5時過ぎに礼拝堂に羽生田家の運転手がかしこまりながら現れた。

つづく

56 :ユーは名無しネ:2018/08/26(日) 20:23:25.66 ID:Aohva5KEm

「…水路…土砂崩れ…」
突然、神宮寺は眼を見開く。そしてそう呟いた。
その時だった。
「…!」
軽い揺れが足下を襲う。ごく小さな地震だ。それでも、不意打ちだったことで少しよろめいてしまう。
「神宮寺?」
よろめきはしたが、倒れてしまうほどではない。だが神宮寺は放心状態で尻餅をついていた。
「おい、大丈夫か?なんか様子おかしいぞ、神宮…」
「あ…あ…」
神宮寺は、ガタガタと震え出す。傘も持っていられず、みるまにずぶ濡れになっていく。そのただならぬ様子に岸くんは自分も傘を持つのを忘れて彼の肩を揺さぶった。
「おい!しっかりしろ!神宮寺、一体どうしたんだよ!?おいってば!!」
「…あ…ああ…!!」
神宮寺の顔が恐怖に歪み、顔色は真っ青だった。小刻みに首を横に振りながら、痙攣はその強さを増していく。
まるでこの世の終わりを見るかのように眼を見開きながら、神宮寺は唇を噛んでいた。どれだけ強く噛んだのか、そこからツー…と一筋、血が滴った。
そこで、地鳴りが響いた。天からではない、確かに地の底から響いてくる揺れだ。
岸くんは咄嗟に身の危険を感じた。土砂崩れが来るかもしれない。だがこんな状態の神宮寺を置いて逃げることも出来ない。
「神宮寺!!このままじゃヤバい!!立て!!安全な所に逃げるぞ!!」
引きずってでもここから遠ざからないと…と岸くんは、依然として震えながら声にならない声を漏らす神宮寺の腕を掴んだ。まとわりつく雨と泥、そして不穏な地鳴りに恐怖心が駆り立てられる。どうにかなってしまいそうなくらい神経が追い詰められ始めた。
そこで天の助けが舞い降りる。
「おい、だから言ったろ!!危険だから早く戻らんかお前ら!!」
さっきの村人が、岸くん達を心配して追ってきてくれた。今の岸くんにはただのおっさんがまるで神様のように見える。泣き出したくなるのをこらえながら岸くんは一緒に神宮寺を抱えてもらうよう懇願した。
岸くんと村人に抱えられながら、まるでうわごとのように神宮寺はこう呟いていた。
「…兄貴…兄貴…ゴメン…」

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69 :ユーは名無しネ:2019/02/13(水) 16:24:30.56 ID:u0n4aodcl

久しぶりに来ました。あの頃のセクバが懐かしい

15 :ユーは名無しネ:2018/04/01(日) 22:42:59.23 ID:F8iI2cowm

「そりゃ外から来る奴らにとっては時期も何もないでしょ。嶺亜や神父の爺さんが上手くやってくれてるよ。あそこの廃病棟は外側から施錠できるから、そうしておけば外に出られない。日没前に入れて日の出後に開ければ何も問題ないし」
「道が復旧するのが早いか、御印の時期が終わるのが早いか、だな…」
挙武は頷く。そしてトマトを一つ、口にした。よく熟れた真っ赤なトマトだ。
そういえば、嶺亜はトマトを頑として食べなかったな…なんてことを思っていると父からこんなセリフが飛び出す。
「…そろそろ命日だな、母さん達の」
「…」
父がどういう意図でそれを口にしたのかは分からない。挙武は黙って頷くことしかできなかった。
今食事をしている部屋の向こうには母と妹の仏壇が納められた和室がある。普段は誰も立ち入ることがないが、時々父や祖父が入っているらしい。挙武はそこに近寄ることすらなかった。
いや、近寄ることができなかった。
「…生きていれば今頃賑やかな食卓だったのにね」
挙武が全ての感情を押し殺してそう口にしたのを、父は黙って聞いている。グラスを持つ手が少し震えていたのが視界に入ってしまう。
張り詰めた空気の向こうで、やかましいくらいに蝉が悲鳴をあげていた。それは父と自分の感情を代弁したのかもしれない、とぼんやりと思った。
「命日には俺も仏壇の前で手を合わすよ」
それだけ言って挙武は食事を終了した。味覚が働かないし、食欲は遙か彼方へ行ってしまった。
部屋に戻る途中、挙武は和室の仏壇を一瞥だけした。母と妹のそれが二つ並んでいるのを。
5歳の自分が奪ったその二つの魂が納められた棚は、静かに沈黙していた。

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61 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:32:35.76 ID:yPh9wWLKp

午後六時を数分後に迎える頃、翻訳は全文の半分程度にまで進んでいた。谷村が単語の一つ一つを訳し、それを颯が書き起こして推測しながら文章化する。
黙々と二人が作業を進める横で、郁が帰りの遅い岸くんの心配をしていた頃、着替えた彼が現れた。
「あれ、岸くん着替えなんか持ってたっけ?」
郁が問うと、岸くんはやや疲れの見える顔でこう答えた。
「いやぁ…それがちょっとアクシデントがあってずぶ濡れになってさ。これ神宮寺の借りて来たんだ」
「アクシデント?」
「うん…」
岸くんは、神宮寺と道祖神の道へ行こうとして急に彼の様子がおかしくなったことを語った。村の人の車で岩橋家に送り届けて落ち着かせた後、ここまで送ってもらったという。
「神宮寺がねえ…なんか思い出すことでもあったのかな。何かが引き金になってさ」
「俺もそう思った。自分のこと何も覚えてないのにずっと『兄貴…ゴメン』ってうわごとみたいに謝ってた。あいつに兄貴がいて、その人に謝らなきゃいけないことをした、とかかなって…。
でもとても聞き出せる状態じゃなかったし着替えさせてベッドに寝させるのが精一杯だったんだ」
「へーそっか。俺たちも岩橋医院に戻ろうと思ったけど、颯と谷村が翻訳の途中だし、もうあそこに閉じ込められる理由もないからここにいようってなったんだよな。栗田は嶺亜くんと一緒に背分神社に行ったけどまだ戻ってこない」
「そっか…そうだな。今から岩橋医院に戻ったんじゃ夜になってしまうもんな。雨が凄いとはいえ、やっぱ出歩くのは…怖いな」
それから岸くんは、颯達の文章化した翻訳の成果を聞きに行く。難しい顔で二人はお互いの画面とメモ帳とにらめっこしていた。
「どう?なんか分かった?」
「うん…今はこんな感じ」
颯はメモ帳を岸くんに見せた。
「星からの怪物が人に宿りし時…その血が捧げられ…怪物は受け継がれる…星の瞬きと共に…火を灯し…邪を祓い…再び遙かなる星へと帰還…外からの侵入者…こんなところ」
「ふうん…だいたい民話集と似たような内容なんだね。でもこの『再び遙かなる星へと帰還』ってのが気になるな…」
「うん。俺もそう思った。民話集にはない内容だし。それとこの侵入者ってのと繋がると思うんだけど…」
岸くんと颯があーだこーだ推測を飛ばし合っていると谷村がぼそっと呟く。
「…灯籠…」
「え?」
「これ…この単語…火を灯す所って意味になるんだけど…それって灯籠のことかなって思って」
「灯籠?ああ、確かこの教会の入り口にもあったような…」
「どっかにもなかったっけ?」
郁も加わり、皆で記憶を探り合う。教会の他にも見た気がした。それは…
「岩橋医院にもあったな。後は…あ、そうだ。学校でも見た!」
岸くんはポン、と手を叩く。皆も「ああ」と記憶が繋がった。
「まだ他にもあるかも…嶺亜くんが帰ってきたら聞いてみよう。そろそろじゃないかな」
颯がそう言ったとほぼ同時くらいに、教会のドアが開く。
「あ、おかえ…どうしたの?」
栗田が、嶺亜を抱き抱えるようにして入ってきた。

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47 :ユーは名無しネ:2018/07/22(日) 21:58:58.34 ID:Hw6SMDAgh

「これ…ここから言語が違ってる…」
「そう。その民話集は去年たまたま背分神社で見つけたものなの。あそこには地下室があって、偶然それを発見したら変な小箱に入れられてた」
「地下室…」
「僕は小学生の頃、学校の暇な時間の時に民話集を読んでみたことがあるから気付いたんだけど、こっちの民話集には続きがあるみたいなの。
でもそこから先が外国語で訳わかんなくて行き詰まってた。僕にはどこの国の言葉か分かんないし、分かったとしてもこんな田舎に辞書なんて売ってないから」
「民話集は全部で3冊あるって聞いてたけど残りの一冊が行方不明だって…嶺亜が持ってたんだ…」
玄樹はその民話集を覗き込む。
「確かに…僕たちにはどこの国の言葉かも分からないね…英語やドイツ語くらいポピュラーならともかく…これどこの国の言語だろう…」
ぱっと見ても、知っていそうなスペルはなかった。ローマ字で記されているものの、ところどころ馴染みのない発音記号のようなものもある。
「なんでそんな大昔にそんなマイナーな言語で書き記したんだろう…江戸時代ってもう鎖国解けてたっけ?
「江戸時代に記されたとは限らないんじゃないの?」
「でもそんな記述どこにもないし…」
「てかなんで一冊だけ…」
色んな憶測が飛び交う中、嶺亜は谷村に問いかけた。
「どこの言語か分かる?」
嶺亜の表情はどこか切羽詰まったものを感じさせる。谷村は数秒首を傾けていたが、何かを思い出したのかはっとした表情を見せた。
「そう言えば…」
ばたばたと谷村は書庫を飛び出して数秒の後に戻ってくる。その手には携帯電話よりも一回り大きいハンディサイズの機体が握られていた。
「何それ?」
岸くんが問うと、谷村は電子辞書だと答えた。外国語履修のために、入学祝いに購入して貰った高性能モデルで、実に31の言語が入っている。これが役に立てないか思い至った。
「これならインターネット接続ができない状況下でも使えるから…これでやってみる」
礼拝堂に戻り、谷村は電子辞書と民話集のページを開いた。
「なんだそりゃ谷村?外国語じゃねーかよ」
栗田が谷村の広げた背分村民話集を覗き込む。自分にはちんぷんかんぷんだから、すぐに興味をなくしたが嶺亜が側で見ているのが気になったようだ。

67 :ユーは名無しネ:2018/10/27(土) 17:32:46.48 ID:ecN5PaZ4D

>>51
アイラウイスキーって銘柄だと思ってるのか?
子供か!
アイラって地方の名前だぞ?

45 :ユーは名無しネ:2018/07/22(日) 21:57:18.69 ID:Hw6SMDAgh

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

嶺亜達が教会の書庫で発掘作業をしている間、栗田と挙武、神宮寺は礼拝堂にいた。栗田も神宮寺も「俺は頭脳派じゃないから」と言って挙武と待つことにした。
外の雨はいよいよ本降りで、激しい雨音が屋根を叩きつけている。これでまた道祖神への道の復旧作業が遅れそうだな…と神宮寺はぼんやりと考えていた。
「なあ挙武、今日もれいあとそのナントカ教の儀式ってヤツに行くん?てか儀式ってなんだよ」
ベンチに仰向けになりながら栗田が問うと、挙武は彼にも理解できるよう、言葉を選びながら答えた。
「儀式というか、俺は背分神社…お前達がここに来る時最初に見たと言ってたあの白い建物の中にある棺桶に入る。そうして日没を待つんだ。それの一部始終の確認が嶺亜の仕事だ」
「カンオケ?なんでそんなもんに入るんだよ、おめー生きた人間なのに。イジメみてーだなオイ」
「俺だって聞きたいくらいだ。だが背分教が興った頃からの慣習になっている。御印を持った者は日没前に棺桶に入り、そこで日没を待つ。完全に陽が落ちて星が出たら…再び目覚める。化け物としてな」
まるで他人事のように淡々と語る挙武に、神宮寺は少し不思議そうに彼を見た。
だが、以前挙武から「化け物化している間の記憶は一切ない」というのを聞いたことがあるからそういうものかもしれない。いや、そう思おうとしているのかもしれないと感じた。
栗田と挙武の質疑応答は続く。
「へー。んじゃアレか、俺たちが最初あそこ通った時、挙武、おめーはあの中で棺桶の中にいたってこと?」
「そうだ。南京錠が壊されてなければな」
「南京錠…あー確かかかってたな。だから中に入れなかったんだけどよ」
「ラッキーだったなお前ら。あの日晴れていれば化け物になった俺に遭遇して命を落としてたかもしれないんだからな」
「あーそれでか。こぞって俺らを運のいい奴らだとか言ってたのは。で、いつ人間に戻んだよ」
「恐らく日の出と共に、だ。星の光が太陽の光に遮られると化け物化は解けるらしい。そうすると再び俺は眠りにつく。ただ、野外でそうなるから目覚めた時けっこう辛いんだ」
「へー。そりゃ難儀だな」
「化け物化してる間の俺は普段の自分では到底出すことの出来ない力があるらしい。棺桶だって一応はがっちりと施錠されるんだ。だがそれもたやすく破るんでな。俺が壊した棺桶は次の日には新しいものに代わる。だからその期間分の棺桶が毎年用意されるんだ。ケッサクだろ?」
挙武は笑う。それは自嘲めいたものでも無邪気なものでもなく、もっと違う何かに対しての笑いだったように神宮寺には感じた。だが文字通り邪気のない栗田は純粋な笑い声をあげる。
「ギャハハハハハハハハハハ!!!なるほどなー!!挙武おめーもどえらいもん背負ったな!!」
だが、さすがの栗田も次の挙武の言葉にその屈託のない瞳を翳らせた。
「初めて化け物として覚醒したその日…俺は隣で眠っている母さんと妹を喰い殺した」
「…」
「…明日は俺が殺した母さんと妹の命日だ。仏壇に手を合わさなきゃいけない」
「…」
神宮寺も何も言うことが出来ない。いくら呪いのせいとはいえ、記憶にないとはいえ、自分が母と妹を殺したことには変わりはない。それを毎年突きつけられるのはどんな気持ちか…考えたくはなかった。
挙武は強靱な精神の持ち主だ、とこの時期つくづく思う。彼の先代である「御印」の持ち主はそのことに耐えられず自ら命を絶ったと聞く。あまり語られてはいないがその前もそのずっと前も似たようなものかもしれない。
自分が自分でなくなり、異形と化して肉親や友人を襲うかも知れない…それはどれだけの枷だろうか。
そんな、なんともやりきれない思いを抱いていると突然挙武は笑い声をあげた。
「と言うわけで、明日はこの俺の気分転換にお付き合いいただこう。間違っても帰ったりするんじゃないぞ」
挙武のその声に応えるかのように、雨脚は少し弱まる。それを見やりながらまた彼は呟いた。
「この雨が明日まで続けば俺は棺桶の中で安らかに眠っていられる。ぬかるみの上で眠るのは勘弁願いたいからな」

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22 :ユーは名無しネ:2018/04/15(日) 21:03:59.91 ID:GMXSfNCzP

「やっぱよ、れいあのことはみんな大事なんだな。こんなにしてくれるなんてよ」
冷やしたタオルを嶺亜の額に当てながら栗田が笑うと、嶺亜は少し目を細めた。
「…そうじゃないよ。僕が倒れると困るから・・・」
「んなこたねーよ。理由はなんであれ、れいあにこんなにしてくれんだからよ。俺は感謝してるぜ。俺が看る!なんつったけど実際料理とかも出来ねーし逆に迷惑かけることになるからな」
「…」
「ほれ、これ食って薬飲んだらもう寝ろよ。しんどい時は食って寝る。アホな俺でもそんぐらい分からあ。自分で食えるか?」
食べさせてやるつもりでスプーンを持つと、嶺亜は起き上がって頷いた。
「大丈夫。自分で食べられるよ。ありがとう」
嶺亜がおかゆと野菜スープを食べて薬を飲んだのを確認すると、栗田は電気を消して部屋を出た。
嶺亜の部屋は居間と続いている。今更気付いたがこの居住エリアはひどくシンプルだ。嶺亜と神父の部屋の他はこの居間しかない。トイレと洗面所、バスルームはここを出て廊下添いにある。廊下の先は教会だ。
その居間のテーブルに、村人が持ってきた食べ物が温められて並んでいる。神父は年寄りだが電子レンジくらいは使えるようだ。
「いっただっきまーす」
箸を掴み、手を合わせる。栗田はあまりお腹はすいていないが、看病には体力がいると判断していつもより多めに口にすることにした。テーブルには様々なおかずが乗っていて、郁が大喜びしそうだ。まずは煮物に手をつける。
「…」
神父は黙々と食べている。沈黙が嫌いな栗田は口の中にまだサトイモが入っていたがそのまま喋ることにした。
「なあ、爺さん」
「…」
「れいあが倒れる前に言ってたんだけどよ、挙武って奴に呪いがかけられてて皆を殺すかもしれねーってマジか?」
神父の箸が止まった。それまで器を見ていた眼差しが栗田の方に向く。
ピン…と空気が張り詰めたのを栗田は無意識に自覚する。
「嶺亜が言った…だと…?」
「ああ。俺最初ジョークかと思って笑い飛ばしたけど、あいつすんげー真面目に話すからさ…もしかしたらマジなのかもしんねーって思って。それちゃんと聞こうとしたら倒れちまったんだけどよ」
栗田は思い出す。あの時の嶺亜の顔を。消え入りそうなほどに儚くて今更ながらに胸が少し痛んだ。
好奇心とはまた違った、何かに突き動かされるような感情から栗田は神父に問う。本当は嶺亜の口から聞きたかったがあの状態ではそうすることは出来ない。
また沈黙が訪れる。時間にして数秒だったが酷く長く感じた。
神父は一度、虚空を見上げてから深い溜息をついた。そのまま眠ってしまうのではないかと思えるほどに瞼の深い皺がその眼光を覆ってしまっていた。

35 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 21:59:12.06 ID:rNv+spPDG

玄樹に紹介されて話してみれば、不思議と馬が合い今では数少ない心の開ける友人だ。嶺亜同様、村の人間は自然と挙武と距離を置くから挙武もまた、人に対して一定の距離を置くクセが付いていた。
だが神宮寺はそんな自分にも臆することも遠慮することもなく懐に飛び込んできた。不思議な性格だ。
神宮寺とくだらないことを言い合って、じゃれあっている間は自分が呪われた化け物であることを忘れることが出来る。この時間は何よりのリフレッシュだった。
それと真逆に、嶺亜といる間は常にそれが念頭にある。もっとも向こうも同じことを感じているだろう。
だから挙武は嶺亜と必要以上にコンタクトを取ることはない。顔を合わせると自動的にこの村を支配し続ける呪いが嫌が応にも脳裏を支配するからだ。
だがこの時期は目覚めるとそこに嶺亜がいて、その嶺亜に連れられて棺桶で眠りにつく。ずっと切り離せない存在となる。それがお互い辟易する。
「…がさ」
神宮寺の神妙な声で、挙武は思考を遮断する。会話に集中するよう自分を呼び戻した。
「岸くん達がさ、今朝はやたら地下室から出てきたがらねーんだよ。昨日は飯食ったらすぐにでも出たい出たいっつって一緒に資料館とか学校とか見て回って遊んでたんだけどよ。教会まで一緒に行ってくんねーかなーって思ったんだけど当てが外れた。おかげで今一人でいるワケ」
「ふうん…まあ変った連中だったからな。嶺亜を気に入るような変な奴もいたことだし」
「栗田だろ?あいつ昨日は教会に泊まり込んで嶺亜の看病したんだと。ババアがそれ聞いて殊勝な若者だって褒めた後に俺に嫌味言ってきやがったけどな」
「へえ…それでか。嶺亜はご満悦だろうな。あいつも気に入ってたみたいだから」
そうなると、ちょっとからかってみたくなるのが悲しい性だ。挙武は神宮寺と共に教会に向かうことにした。

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8 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 01:17:37.48 ID:Qg3u1bC36

作者さんお疲れ様。なかなかおどろおどろしい話で楽しみ。れあくりFOREVER…

66 :ユーは名無しネ:2018/10/27(土) 17:32:07.56 ID:ecN5PaZ4D

>>39
いいえ、私はスポーツ推薦で国立大学に入学したはずなんで筑波大学か鹿屋体育大学卒業と思います。
また明日から心を豊かにするためと採用試験打ち上げの旅行に行きます。もちろん費用は婚約者に出してもらいます。うらやましいですか?

11 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 22:41:00.36 ID:N8r8sD48o

「ここの池も真っ赤だ」
「うん。背分村には岸くん達が見た背分沼の他にこの背分池の二つの池があるんだよ。こっちはかなり小さいけど」
「この神社も背分教?でも、仏教のあれに似てる」
谷村が尋ねると、玄樹は頷いた。
「そう。これは仏教のものだと思う。だから背分教が興る前から建てられたものなんだって。護国神社って記されてるね」
神社の中は荒廃していてボロボロだ。床が腐ってるかもしれないから中には入らない方がいいと玄樹に止められるが、好奇心旺盛な岸くん達はずかずかと入っていく。
「うわっ蜘蛛の巣!!」
入ってすぐに谷村が蜘蛛の巣に引っかかり絶叫とともに床をぶち抜いた。
「おいおいおい大丈夫かよ谷…なんだっけ?谷崎?谷巻?」
「谷村だよ神宮寺くん。谷村大丈夫?捕まって」
颯が手を貸し、腐って崩れた床から谷村は引き上げられる。
「大丈夫?怪我はない?」
「いてて…大丈夫…」
床下をもがいた谷村の片方の手には何かが握られている。夢中でもがいたから気が付かなかったが固い紙のようでくしゃくしゃだ。
「…?」
皆が谷村の二の舞になるまいと早々に外に出たから、この時点でそれは谷村しか目にしていない。
何故神社の、しかも床下にそんなものがあったのかは知る術もない。それは古い一枚の写真だった。
写真には生まれたての赤ん坊が二人、おくるみに包まれて眠っている姿が映されている。何気なく裏を見ると「1997・岩橋病院にて」と乱雑な字で記されていた。
「1997…年…」
谷村は1998年生まれだからちょうど一つ年上だ。一つ年上と言えば栗田…そこまで連想して『何やってんだ谷村、置いてくぞ』の声に慌てて皆の後を追う必要に迫られ、谷村は思考の扉を閉じて走り出した。

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65 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:44:45.39 ID:yPh9wWLKp

謎の規制で更新が一ヶ月以上滞りました。規制あなおそろし

36 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 21:59:54.21 ID:rNv+spPDG

朝食が地下室に運ばれてきて、岸くん達は大急ぎでそれをたいらげると(郁だけはじっくり時間をかけていたが)外に出ようという神宮寺の誘いをやんわり断ってかき集めた書物の解明に急いだ。玄樹は受験勉強のため今日は一日籠りっきりになるらしい。
「颯、谷村、大丈夫?昨日ちゃんと寝た?目の下のくまが凄いけど…」
「ありがと岸くん。くまはどんだけ寝ても消えないからどうせ一緒だと思って昨日は読み切るまで起きてたんだ」
一晩かかって颯と谷村は背分村民話集とそれに関する幾つかの書物を読破してくれた。さすがは文学部と名門高校出身だ。
「だいたいは昨日話した通り…」
欠伸まじりに谷村はかすれ気味の声で説明を始める。
「事の起こりは今から約150年くらい前かな…この辺りが例の紅茶の茶葉の発見で開拓されてからすぐに大規模な干ばつが村を襲った。川も湖も干上がってどこからも水を引けない。作物が取れないから生活ができなくて争いごとも頻繁に起こって弱い者から死んでいった…。
雨乞いを何度も試みたが効果がなくて、万事休すだった時に『星からの使者』を名乗る者が雨を授けてやると村人に持ちかけた。藁にもすがる思いだった村人たちはその使者の交換条件である『呪い』を受け入れた…」
谷村の指差したページには、おどろおどろしい魔物が使者から村人へと移る様が描かれている。鋭い牙を持った魔物だ。
颯がそれに続く。
「呪いは当初、村人全員にかけられたみたいなんだけど…夜になると血を求めて彷徨う村人が描かれてる…赤い池に向かって彷徨い歩く様とか…」
「あの赤い紅茶とも関係あんのかな」
郁の呟きに、颯と谷村は頷く。
「どうやら無関係や偶然じゃないみたい。あの紅茶には興奮を鎮める作用があるって。凶暴化を防ぐために常飲してたみたい。けど、だんだんと呪いは形を変えていった」
「形?」
「そう。村人全員にかけられた呪いが、だんだんと凝縮して一人に全てが集中するようになった。この絵見て」
颯が指を差したページには、半裸で背を向けた人間が描かれている。その背中には…
「これ…!」
岸くんが前のめりになる。郁も眉を吊り上げた。
「そう。俺たちが最初に来た時に玄関先に飾られていた飾りの形と同じ痣がこの人の背中に浮き出てる。どうやらこの痣を持つ人がその呪いを一身に受けた人…今で言うと挙武くんなんだと思う」
挙武の背中は見たことがないが、もしそうなら彼の背中には『お守り』と称されるあのオブジェと同じ形の痣があるということになる。
「背分教が誕生したのはこの呪いのせいだって」
もう一冊…『背分教之伝』という古びた冊子を谷村は開けた。

5 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:45:01.88 ID:rtFhNcmhO

「これはうちのお婆ちゃんとお爺ちゃん、それと神父さん…嶺亜のお父さんの若い頃の写真だよ」
「え、まじ?」
皆は近づいてその写真を見る。30代くらいの男女三人が教会の前で写っている。神父の爺さんと言われてもあまりピンとこないのはやはり年が経ちすぎているからだろう。玄樹の祖父母もそうだった。
「ちょうどこの頃にひいお爺ちゃんが体を壊して、お医者さんとしての仕事ができなくなって…お婆ちゃんが継いだの。お爺ちゃんは入り婿だったんだ。4年前に亡くなったけどね」
少ししんみりしながら玄樹が語る。きっと祖父のことが好きだったのだろう。
「お爺ちゃんは僕が医者になって家を継ぐのを楽しみにしてたから…だから僕は今年こそは合格しないと」
「ま、玄樹にはこの俺が付いてるから心配ねえよ」
神宮寺が少し照れくさそうにそう呟いた。いいコンビだな…と岸くんが思ってると「でも神宮寺来てから二浪したんだろ?」と郁の無邪気で残酷なツッコミが返ってくる。
「これは…?」
谷村が一枚のカラー写真を指差した。それは遠足の写真か何かだろうか…真ん中にいる初老の頭髪の薄い恰幅のいい男性とリュックを背負った子ども達が取り囲んでいる。何故こんなものに目を留めたのか颯が尋ねると谷村は目を細めて答える。
「…この子と…この子がさっきの二人に似てる気がして…」
「さっきの二人?ああ、嶺亜と挙武?そうだよ。それは10年くらい前の小学校の野外活動の写真。真ん中はその年退職した校長先生。僕は生憎体調を崩して行けなかったんだ。道祖神の近くにある背串岳っていうところ」
「へー、谷村よく分かったね。言われてみれば面影があるけど」
ふんふんと頷きながら岸くんが感心する横で神宮寺も写真を覗きこんだ。
「ふーん。俺も言われるまで分かんなかったわ。これとこれがねえ…嶺亜の奴この頃からこまっしゃくれた顔してんなー」
「でも挙武くんを家まで送ってあげるなんていい子だね。仲いいんだね、あの二人」
颯がそう言ったが神宮寺は首を横に振る。
「仲良くなんかねーよ。この時期以外はほとんど顔合わすこともねーし昔から合わねーって挙武は言ってた。嶺亜もそう思ってるだろ」
「仲良くないのになんで家まで送る必要があるの?村に住んでるんだから一人で帰れるでしょ?それとも挙武くんって相当な方向音痴とか?」
「…そういうわけじゃねーよ。挙武は…まあ上手く言えねえけどこの時期は嶺亜がずっと付いてる。そういうこと」
「へ??良くわかんないんだけど…」
「あ、ねえ、背串岳に行ってみる?涼しいし面白い場所もあるしピクニックがてらに…」
まるで岸くんたちと神宮寺の会話を無理矢理終わらせようとするかのように、玄樹がそう持ちかけた。大学生にもなってピクニックねえ…と渋っていると、玄樹の「うちの人にお弁当作ってもらってさ」の一言に郁が激しく同意し、他にやることもないので決まった。

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63 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:37:14.10 ID:yPh9wWLKp

「僕はね、寂しかったんだよ。なんで僕はお母さんと一緒にいられなかったんだろうって挙武のお母さんを見る度に思ってた。お父さんもね」
「…擁護するわけじゃないが、父さんは多分ずっとお前のことを考えていたと思うぞ。母さんは俺が殺してしまったから分からないがな」
挙武にしては珍しく、嶺亜の気持ちを慮る発言が出る。
「小学校に入った頃…嶺亜、お前が原因不明の高熱にみまわれた時…知らせを受けて父さんが飛び出して行ったのを覚えている。
それだけじゃない、事ある毎に父さんはお前のことを案じていた。皮肉にも、『嶺亜様の身に何かあっては村の存続に関わる』という建前を掲げれば不自然ではないからな」
「…」
「俺だってバカじゃない。小さい頃から薄々気付いていた。嶺亜はもしかしたら俺と双子で生まれたのかもしれないってな。俺が知ったのは父さんが爺ちゃんと話していたのを偶然聞いたからだ。その時の心境はお前と似たようなものだ。ああ、やっぱりなって」
もしも自分たちが二卵性ではなく、一卵生だったら…ごまかすことも隠蔽することも不可能だから、一緒にいられたのだろうか。無意味な仮定を何度したか分からない。そしてその度そんな仮定が無意味であることを思い知る。
自分は教会に捨てられ、神父見習いとして御印の時期を皆に知らせる…それだけの存在だ。父も母もない、もちろん兄弟も。
全ては無意味なのだ。
だけど、その無意味に意味を与える時が来た。
「もういいだろう。そんな話をして何になる。ぐずぐずしていたら陽が暮れる。この雨がいつやんで星が現れるとも限らない。さっさと棺桶に鍵をして行け」
突き放したかのような挙武の言葉に、嶺亜は抑えていた感情が少し漏れてしまう。
「行かない。僕はここから出ない。陽が暮れるまで」
「何を言ってるんだ?」
挙武が睨む。だが嶺亜は怯まない。
「僕はもう嫌だ。ここにずっと縛り付けられて、ずっとここで誰から生まれたのかも明らかに出来ずに過ごしていくのももううんざりなの。こんな役目さえなければ、僕は…」
車の中で待っていてくれてるであろう栗田の屈託のない笑顔が脳裏に浮かんで、声が震えてしまう。せっかく出会えたのに、その出会いが皮肉にも引き金になってしまった。
何もかも…全てから解放されてしまいたい。
生まれ変わったら、栗田のように一点の曇りもない笑顔を太陽に向けて生きたい。澄んだ瞳で星を仰ぎたい。溢れる願望が、自分を突き動かした。
だが…

44 :ユーは名無しネ:2018/07/01(日) 20:51:50.92 ID:XSg4nzkjF

「それ…」
背分村民話集、背分教之伝…それに見覚えのない古いノートや絵の類いまであった。
「岩橋病院の地下で見つけたものだよ。色々あったけど関係ありそうなものだけ持ってきたんだ」
「ここにもなんか手がかりになるものがあれば、って俺たちは思ったわけ」
どこに持っていたのか、おにぎりをかじりながら郁が補足説明した。
ようやく嶺亜は思考が追いついた。つまりはこうだ。この村が抱える呪いについて知った彼らはそれを断ち切ることが出来やしないかと書物を読みあさり、関連の資料を探した…そしてここへやって来た。玄樹も勉強を放ってまで来たということは彼らに同意したのだろう。
だが嶺亜は冷静になればなるほど、彼らにかけるべき言葉に躊躇いが出る。何故ならば…
「残念だが君らが得た情報だけでこの村にかけられた呪いがどうにかなるなんて絶対にない」
自分ではない誰かの声が、嶺亜の脳裏に浮かんだセリフを代弁した。
それは挙武だった。
「100年以上、誰も何もせずにいたと思うか?それこそありとあらゆる試行がされたことだろう。でもどうにもならないことは一目瞭然だ。現に俺はこの雨がやめば今夜も化け物になってこの村を徘徊する」
そう断言した後、しかし挙武は少しばつが悪そうに視線をそらしながら独り言のように呟いた。
「だがまあ気持ちだけは受け取っておく。よそから来た奴らがこの村の暗部に真っ向から向き合ってくれるなんて思わなかった。やっぱり君らは相当な変わり者だ」
嶺亜には、それが挙武にできる最大限の感謝の表現なのだと感じた。
それは嶺亜も同じだった。よもやよそ者にこの村が抱える全てを知られるなんて思ってもみなかったし、しかも彼らは騒ぎ立てて畏れるどころかこうして親身になってどうにかならないかと思案してくれている。それが自分の中の何かに火を灯した。
だから嶺亜は言った。
「教会にも色々資料があるから見せてあげる。気の済むまで調べて」
教会の資料倉庫に嶺亜は岸くん達を案内した。それから父に了承を取りに行く。
「かまわん。好きにしろ」
以前なら、村の人間にも勝手に見せることすら許さなかっただろうが、嶺亜はなんとなく父はそう返事すると思っていた。彼もまた、何か思うところがあるのかもしれない。
「分かった。ありがとうお父さん」
部屋から出る際、嶺亜は一度だけ父の方を振り返った。
父は窓の外の雨を、無表情で見つめていた。

つづく

46 :ユーは名無しネ:2018/07/22(日) 21:58:00.02 ID:Hw6SMDAgh

教会の書庫は礼拝堂と嶺亜達の居住部分を繋ぐ廊下の間にある。岩橋医院のそれとは違い一応は整理されていて、書物や信者帳などが背表紙で判断できるようになっていた。
「関係ありそうなものねえ…」
書庫は狭いので、嶺亜と玄樹、そして岸くんと颯と谷村が入った。中は若干埃っぽく、普段は嶺亜も神父も入ることは稀だという。
「やっぱり、天文学に関する書物が多いね…」
玄樹が一冊一冊手に取りながら呟く。確かに、タイトルだけでもそれと分かるものが何十冊もある。岸くんは天文学は全くの専門外だから2,3ページめくってみても訳が分からない。これを全て頭に入れるのは弁護士並の頭脳が必要だろう。
「多分ほとんどがそうだよ。僕も何回か整理や掃除で入ることがあったけど、どれも難しそうで読もうとは思わなかったし。お父さんなら分かるんだろうけど」
嶺亜が説明した。彼は入り口に立って岸くん達が物色するのをただ見ているだけ、といったところで勝手にあれこれされないように見張っているという意味もあるのだろう。
「天文学の専門書は関係なさそうじゃない?星の動きを見て呪いの時期を当てるためのものでしょ?」
「そうだな…じゃ、こっちのこの…信者帳?みたいなものは…」
そこには村人とおぼしき人名と住所などが記されている。いつの時代からかは分からないが相当に古いものもあり、触るだけでパラパラとページが散ってしまいそうになる。
「名簿とか見ても仕方ないしなあ…」
どうやら昨日以上の収穫はなさそうに思えた。諦めモードに入っていると、それまで黙って見ていた嶺亜がどこかに行ったかと思うとすぐに戻ってきて、一冊の古びた冊子を手渡してきた。
「これ…」
それは『背分村民話集』だった。谷村が昨日小学校から持ってきてしまったものと同じものだ。谷村はそれを一応昨夜最後まで読破した。
だが手渡された民話集をパラパラめくって見た谷村は首を捻った。

54 :ユーは名無しネ:2018/08/26(日) 20:21:16.62 ID:Aohva5KEm

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

「…分かった…これはルーマニア語だ…」
電子辞書とにらめっこすること小一時間、谷村が突破口を見出していた。
民話集の続きに記された言語は、乱雑に文字を羅列していたため、どこまでが単語の綴りなのかが分かりにくく、苦戦を強いられていた。だが、谷村は予めヨーロッパに焦点を当てていて、それが功を奏した。
「ルーマニア語?ルーマニアって、どこにあんだよ」
郁が覗き込む。雨は激しさを増す一方で、神宮寺が玄樹達の帰りを心配しながら待っていた。嶺亜はまだ完全に体調が元に戻っていなかったから、栗田の提案により部屋で休んでいた。あと数時間で挙武と一緒に背分神社にこの大雨の中出向かないといけないからだ。
「東欧だよ。ハンガリーとかブルガリアの近くにある共和制国家」
そう言われても郁にはピンと来ない。国名はなんとなく知ってはいたが、何が名産で美味い国だろう…と記憶を探っているとそれは少し反れて別の記憶の引き出しが開いた。
それは全くの偶然で、この企画に参加する少し前に読んだ漫画の内容がそれだったにすぎない。
「そーいやさ、吸血鬼のモデルになった奴がルーマニア人の貴族だったよな」
「これもそうだ…ああ、これもだ。うん…」
郁の呟きには答えず、ぶつぶつと独り言を呟きながら谷村は民話集と電子辞書の画面に視線を行ったり来たりさせている。どうやらトランス状態に入ったみたいで、邪魔をしないよう郁はそれ以上の質問をやめた・
「腹減ったなー…なんか食いもん買いにいきてーなー…」
切ない声を絞り出しながら窓の外を見やると、麓で車が停まるのが見えた。岸くん達が戻ってきたのだ。
だが彼らの表情は冴えない。それに、颯がビニール袋を抱えていたのが気になる。
「渡せなかったんだ、これ…」
中は湿布薬やアイスノン、それに食料だった。空腹だが、さすがにこれをねだるのは倫理に反すると郁は判断し、少しでも明るい話題を…と谷村が翻訳の糸口がつかめたことを話した。
「ホントに!?で、なんて書いてあるの?」
岸くんが食いつくが、谷村は難しい顔をして首を横に振る。
「まだそこまでは…単語を翻訳してるけど、文法とかもあるし意味が分からない。それを繋げてどうにか文章にしようと…」
「ふうん成程…頑張って谷村。期待してる」
岸くんも、よもやここに来て谷村がこんなに役に立つ存在になってくれたことに感動しきりだ。始めは半ば強制的に連れてこられ、帰りたくて仕方がなかったのに…
そうなると、自分も何かせずにはいられない。出来ることはないだろうか…とソワソワしていると、神宮寺が玄樹を連れて帰って休ませてやりたいと言うので、停めておいた車の運転を申し出ることにした。
「…ごめんね、岸くん。帰りは歩かせることになっちゃうけど…」
すでに泣き出しそうな顔で玄樹は頭を下げる。おばさんの家からの帰りも、彼は殆ど声を発さなかった。
「いいっていいって。ゆっくり休んだ方がいいよ。雨の降る日って気が滅入りやすくなるし…神宮寺と一緒にゲームでもやって…」
いいかけて、ゲームなんていう近代的な娯楽がここにあるのだろうか…と岸くんは思い直す。
何か気が紛れることがあればいいのにな…と今更ながらに思いながら送り届けて教会に一旦戻ろうとすると、神宮寺に呼び止められる。

12 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 22:41:26.97 ID:N8r8sD48o

「あ、もうこんな時間だ。全然気付かなかった」
栗田と嶺亜は礼拝堂で話しこんでいていつの間にか正午を過ぎていたことに気付く。昼食をどうしよう…と思っていると神父がやってきて、自分はもう軽く済ませたから食堂ででも食べてきなさいと嶺亜に告げた。
「あー!昨日行ったぜ!すんげーオンボロの食堂。俺、れいあと一緒にいられなくて拗ねてたんだよなー。行こうぜ、れいあ!」
栗田は意気揚々と立ち上がって嶺亜の手を引く。
礼拝堂を出ると、南中高度の陽射しが容赦なく降り注いだ。今日の最高気温は何度だったっけ…?と嶺亜が思っていると栗田はにっこりと笑う。
「傘持ってくりゃ良かったなー」
「え?なんで?晴れてるのに」
「こんなきっつい陽射しじゃれいあの白い肌に悪そうだからな!俺みたいに元々黒かったらどうってことねーけどよ」
屈託のない笑顔でそう言う栗田に、嶺亜は声をあげて笑った。こんな風に笑ったのはいつ以来だろう…と記憶を掘り起こしてみたが検索には引っかからなかった。もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
嶺亜は生まれてから今までこの村から出たことはない。嶺亜だけではない、殆どの子たちがそうだ。この地に縛り付けられている村人は離れることを許されない。だから死ぬまで出ることはないだろう。
栗田は嶺亜が今まで出会ったどの人間ともタイプが違う。根っから陽気で、無邪気で、無垢で眩しいくらいに明るい。自分にはないものだから余計に魅力的に思えるのかもしれない。
今、栗田に惹かれていることで今まで自分がいかに狭い世界で生きてきたかを痛感する。それは神宮寺と出会った玄樹もそうなのだろう。だからこそあの二人は出会って間もないのにお互いがもう切り離せないくらいの関係になった。
嶺亜はそれが羨ましかった。
自分もあんな風に全てを理解して受け止めてくれて、側にいてくれる存在が欲しかったのだ。いつの頃からかずっとその願望を抱いていた。
それは、生まれてすぐに捨てられたからなのかもしれない。もっともそれは後付けによるものなのだろうが…
「…かもしれない」
「え?なんだって?れいあ、蝉の声がうるさくてよく聞こえねーよ!」
食堂までの道を歩きながら嶺亜は思った。そして無意識のうちに声にしていた。
「栗ちゃんがいてくれたら、僕はここから一生出られなくても平気かもしれない」
それが叶わないと分かっているからこそ、口にせずにはいられなかった。
「あん?なんだって?あ、食堂見えてきたぞ、あれだろ?『上背分食堂』!!」
食堂に入ると客は中年男性一人しかいなかった。狭い村の中で嶺亜を知らない者はいない、栗田と入ってきた嶺亜を見てすすっていたそばを少しつめたらしく激しく咽せだした。
「嶺亜様…?どうしてこんなところに…」
「こんにちは。友達ができたから、一緒に食事しにきただけなんです。ごめんなさい驚かせて」
「あ?なんでれいあが入ってきたからってんな驚くんだよおっさん。可愛いからか?それにれいあ『様』ってなんだよ」
「気にしないで。栗ちゃん何が好き?メニューはこっちに全部掲げられてるよ」
「ん〜…つっても俺は郁みたいに食いしん坊じゃねーからなぁ…んじゃこれにすっか。上背分そば!」
「じゃ、僕もそれにする。あ、すいません上背分そば二つお願いします。
厨房の奥からおずおずと出てきた初老の女性はかしこまりながらメモを取って奥に戻って行った。ややあって出てきた上背分そばはボリュームが凄くて、食に興味のない栗田と少食の嶺亜には多すぎてどちらも半分以上残してしまった。「1つで良かったね」と二人で笑い合う。

25 :ユーは名無しネ:2018/05/13(日) 20:16:18.45 ID:lqvfDC7pb

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

どこをどう走ったのか全く思い出せない。谷村は気付けば古民家の門の前にいた。表札はかかっていない。
「どうしよう…どうやって戻ろう…」
ここへきて何度目かの涙目になって指をくるくるとしていると、突然谷村は名前を呼ばれた。
信じられないことにその声は聞き慣れたもので、こういった状況においては何よりも有難くて今しがたとは全く別の意味で泣きそうになる。
「颯…」
門の向こうの石階段の上に、颯の姿があった。助かった…と谷村は歓喜に打ち震え、その石階段を自身も驚くようなスピードで駆け上がっていった。
「颯…!どこに行ったかと思ったら…でも良かった会えて。俺一人じゃみんなのところまで戻れそうにないから…!」
「俺も良かった。ちょっと一人ではどうにもならなさそうだから」
「へ?」
そもそも、颯は何故民家の門の向こうまで入って行ったのか。常識ある彼にしては不思議な行動だ。
疑問が解消されたのは、颯に招かれてその民家の中に入った時だった。
入ってすぐの和室に中高年の女性が横たわっていた。
その女性に颯が駆け寄る。
「おばさん、俺の友達が来てくれたからなんとかなるかも。もう一度やり方教えて」
「颯、どうしたんだ?この人は…」
「俺が校内散策してて、ちょっと体育館裏から続く道を探検してたらこの人が倒れてたんだ。どうやら足を挫いたらしいんだけど、折れてたら大変だし、ここまで案内してもらって担いで来たんだけど…」
女性は辛そうに呻きながら身を起こそうとして颯に止められる。
「でも電話線が切れてるのか配電盤がおかしいのか分かんないんだけど、電話が通じなくて…俺、機械はあんまり得意じゃないからどうにもならなくて、やっぱり学校に戻って誰かに知らせようと思ってたところに谷村が通りかかったんだ。谷村、あんなとこで何してたの…?」
そうだ。自分がここに来た経緯を谷村は思い出す。職員室前で聞いた話の内容を、状況も忘れて颯に話すと彼は予想通り眉をひそめた。
「それってどういう…」
「分かんない。けど、なんか聞いちゃったの知られたらヤバそうで反射的に逃げてしまったんだ。そしたらここの門の前にいたってわけで…」
「あんた達…もしかしてよそ者かい?どうりで雰囲気が違うと思ったよ…」
颯と谷村の会話を聞いて、よろよろと女性は身を起こした。
年は50代後半くらいだろうか、小太りで化粧っけはないが大きな瞳から若い頃は美人だっただろうと推測される。どこか翳りが見えるのは、怪我をしているせいだろうか、それとも…
「あ、俺たちは東京から来ました。それよりおばさん、足…」
「ありがとうね。大分落ち着いたよ。多分折れてはないと思う。普段、人との関わりを絶っているとこういう時に困るんだね。電話なんてもう何年もしていないから通じないことも知らなかったよ」
谷村はようやく神経が落ち着いてきたから冷静に辺りを見回してみたが、確かにこの家はほぼ山の中にあり、独立した一軒家だ。まるで人目を避けるかのような作りにすら思える。

58 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:25:46.86 ID:yPh9wWLKp

てすと

7 :ユーは名無しネ:2018/02/25(日) 21:46:06.30 ID:rtFhNcmhO

「そっかー。4時ねえ…今何時だっけ?このへんゲーセンとかある?」
「ゲーセン…?」
「その返事じゃあねーんだな。そりゃそうだよなーこんな田舎じゃ。岸たちは何してんのかな」
「ごめんね…楽しめるようなところが思い浮かばないの。ほんとになんにもないところだから。でも、僕は栗ちゃんのことを知りたいな。話聞いてるだけで楽しいと思うから」
「そっか!んじゃもー教会戻るか!この服あっちーだろ?着替えたいだろうし」
「うん」
教会に戻ると神父である嶺亜の父が祭壇の前に跪いて祈りを捧げているところだった。入ってきた栗田を見て肩眉を吊り上げる。
「そやつは…」
「ちょっとの間だけ一緒にいようってことになったから来てもらったの。着替えてくるから待っててね、栗ちゃん」
嶺亜は微笑んで奥のドアへと姿を消した。礼拝堂で神父と二人きりになった栗田は嶺亜が戻ってくるまでの単なる暇つぶしとして気になっていたことを尋ねた。
「なーおっさん。おっさんはれいあのホントの父ちゃんじゃねえって本当?」
礼儀も遠慮もない栗田の問いに、神父は深い皺の奥の眼光を尖らせたがそんなものは栗田には届かなかった。それをすぐに察したのかゆっくりと口を開く。
「誰から聞いたか知らんがその通りだ。それがどうした?」
「別に。れいあの本当の父ちゃんと母ちゃんってどこにどうしてんの?死んだん?」
神父は天井を仰ぐ。そこに何かあるのかと栗田も視線を向けたが何もなかった。白く高い天井があるだけだった。無機的で無表情なそこにどんな思念を送っているのかは分からない。
ややあって、神父は浅い溜息と共に答えた。
「わしも知らん。ただ、嶺亜は20年前の春先にこの教会の前に置かれておった。泣きもせず、眠っておったが色も白くてまるで死んでいるかのように見えた。誰が産んだのかも知らぬ。村の者なのか、外の者なのかも…」
「ふーん。そんでおっさんがれいあの父親代わり?」
「施設に届けろと村の者は言うたが気が進まなくてな。だがわしは子育てなどできる余裕もなかったから教会の信者が代わる代わる嶺亜の世話をしてくれた。あれは誰に抱かれても泣かぬ大人しい子じゃった」
「嶺亜って名前はおっさんがつけたん?可愛い名前だよなーぴったりだぜ」
「いや…」
神父はかぶりを振る。
「着ておった産着にメモが挟まれておった。『嶺亜をよろしくお願いします』とな」
「へー。写真とかねーの?小さい頃とかのさ。可愛かったんだろうなー。今でも可愛いもんな」
「写真は数えるほどしかない。わしはカメラというやつが嫌いでな」
「見せてくれよ。なあいいだろ、おっさん」
せがんだところで奥のドアから嶺亜が夏らしい格好になってジュースを乗せたお盆を手に現れた。神父と栗田が話しているのを不思議がっていたがその話の内容を栗田が教えると苦笑いをする。
「写真かぁ…あんまり好きじゃないから…あ、でも栗ちゃんの小さい頃の写真は僕も見たいかも」
「俺?俺の写真はケータイに入ってるの以外だったら家帰んねえとねえからなあ。そうだ!れいあそのうち俺ん家にも来てくれよ!約束な!」
「そうだね。行けたらいいな」
いつの間にか神父は姿を消していた。それから2人でお互いのことについて語ったがそれは主に栗田が自分のことや岸くんたちのことについて喋るだけで、嶺亜はそれを微笑んで聞いていた。

つづく

34 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 21:56:55.11 ID:rNv+spPDG

まどろみを振り切って不快な目覚めをどうにか緩和した挙武は、辺りを見回して自分の位置を確認した後すぐに自宅に向かって歩き始める。
嶺亜が来ないことは予め分かっていた。昨日倒れたと聞いたから恐らく自分を迎えに来るのは無理だろう。
「自分が丈夫な方でないことは分かってるくせに、なんだって無理をしたんだ」
本人がそこにいるかのように、皮肉を飛ばしてみたが虚しくこだましただけだった。
この時期、目覚めて嶺亜がそこにいないことなどあっただろうか…子どもの頃は、嶺亜から知らせを受けた大人が来てくれていたがここ数年は専ら嶺亜の役目だった。
嶺亜は、普段は飄々としていて煙に巻く性格のくせに教会の任務に関しては忠実で完璧だ。本人もそれを認めている。
自分の存在意義だから
まるでそう言っているかのようだった。生まれてすぐに捨てられた自分が、村の救世主であるという意味…
挙武はこの時期…村にかけられた呪いが挙武を覚醒させている間は嶺亜が自分の居場所や行動を把握していることも知っているが、挙武の方からは全く分からない。今、嶺亜が起きているのかどうかすら分からなかった。
だから挙武には嶺亜が何を考えているのかも当然分からない。どうして彼の存在意義である任務が遂行出来ないくらい、体調管理が出来ないくらいに無理をしたのかも。
何かが壊れようとしているのか…?
壊したのは、あの連中か?それとも…
空を見上げる。憎たらしいくらいに晴れている。その青を引き裂くかのように鳥の群れが空を泳いでいた。
「何クソ真面目な顔してんだよ、挙武」
ふいに話しかけられ、細めていた眼を声のする方向に向けると神宮寺が立っていた。そこで気が付いたが今自分が歩いているのは岩橋医院の近くだった。
「新しいギャグを考えてただけだ」
そう答えると、神宮寺が笑う。彼のひどい寝癖にどっちがギャグか分からないなと挙武も吹き出した。
「お前の方こそ、こんな朝っぱらからこんなとこで何してる?散歩かラジオ体操か?」
「んなワケねーだろ。昨日のアレでババアの怒り買って使いに走らされてんだよ。嶺亜の様子を見て来いってよ。冗談じゃねー。電話ででも聞けよって話だぜ」
不満タラタラで、神宮寺は愚痴る。大声で笑うと尻を蹴られた。
「てか嶺亜とお前が一緒に歩いてないとこ見ると、あいつの体調相当良くねーみてーだな。ババアもすげえ心配してたぜ。嶺亜様がお倒れになったらこの村の存続に関わるとかなんとか…んな大層なもんかね」
「お前も知ってるだろう?嶺亜はこの村の救世主だ。何せ俺の化け物化のタイミングをピタリと当てる。救世主と言うより超能力者だな」
「超能力者ねえ…ほんっとにこの村は信じらんねーことだらけだぜ。記憶失ってなきゃ大騒ぎしてただろうな、俺」
神宮寺がこの村に迷い込んで来た時のことを挙武はぼんやりとしか覚えていない。地震があって、そこに生き埋めになっていて岩橋医院に運ばれた。目覚めると自分に関することを何もかも忘れていたという、まるで漫画のような話だ。

38 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 22:04:52.70 ID:rNv+spPDG

「そうかも。けどこれだと精神病患者の手記みたくなってるからなんとも言えないな…けど、これを書いた人は『背分村民話集』を熟読してたってことかな」
「2という数字は災いを…か」
「そういや郁がこんなの見つけてたね」
颯が手に取ったのはこれまたひどく古びて黄ばんだ画用紙にサインペンか何かで描かれた二人の人物の絵だ。
「誰をモデルにしたんだろう…けっこう上手いな」
「でも変な服だね。民族衣装みたい」
二人の人物はそれぞれ違う方向を向いている。十歳くらいの少年だ。
「双子…じゃないよな。顔も似てないし」
「ここに入れられた人が描いたのかな…無関係のような、そうでないような…」
議論し合っているうちに、昼近くにまでなっていたらしく岩橋家の使用人が呼びかけてきた。岸くん達は慌ててそこいらの資料を隠した。
「玄樹ぼっちゃんが、皆さんと食べたいと仰ってます。神宮寺が今朝使いに出たまま戻らないので」
「神宮寺が?」
情報収集は一旦後回しにして、招かれた岩橋邸のリビングに向かうと少しむくれた様子の玄樹がいた。
「…さっき電話があって、教会で食べるって。僕は朝からずっと勉強をしてるのに…」
「教会?嶺亜のとこ?そんな仲良かったっけ、あの二人?」
「挙武も一緒なんだって。教会には栗田もいるから二人ってわけではないけど…」
このむくれ方から察するに、神宮寺は玄樹にとっていなくてはならない存在なのだろうなと岸くん達は感じる。
こんな閉鎖的な村にいるのだからせめて友達とくらいは明るく笑っていたいのかもしれない。そう判断して岸くん達は玄樹を元気づけるべくどんちゃん騒ぎを始めた。
「ほんと岸くん達って面白い。こんなに笑ったの初めてかも」
その甲斐あって、玄樹に笑顔が戻る。
「あら、お客さん?賑やかだから…」
上品な身なりの、40代後半くらいの女性がリビングに訪れて、玄樹にそう問いかける。「うん」と頷くと玄樹は答えた。
「昨日から廃病棟の地下室に泊まってもらってる東京の大学の人たちだよ」
「あらそうなの。あんなところに…ごめんなさいね」
申し訳なさそうに頭を下げると、女性は玄樹にこう告げた。
「今日は教会でお祈りしてから村役場行って、ちょっと他にも寄るところがあるから帰るのは夕方ぐらいになるから。お勉強はほどほどに、あんまり無理をしないでね」
玄樹は頷き、女性は部屋を去って行った。
「誰?お母さん?」
「うん」
「あんまし似てないね。玄樹は女の子っぽいから勝手にお母さん似だと思ってた」
玄樹の母も美人の類いだろうが、彼には似ていなかった。だが記憶力のいい谷村だけは、なんとなく玄樹の母とその祖母は似ているなと感じた。もしかしたら玄樹の父は入り婿かもしれない。
その谷村の推測を補足するかのように玄樹は説明する。
「お母さんはお父さんと結婚する前はここの病院で看護士をしてたんだ。お婆ちゃんは自分と同じ医者にしたかったみたいだけど、お母さんは自分は看護士の方が向いてるからって。
お父さんとはちょうど研修医でここに務めるその前から付き合ってて…幼馴染みだったんだって。お婆ちゃんも昔から気に入ってたから結婚には大賛成だったみたい」
そして昼食もほとんどたいらげた頃、食後の赤い紅茶を上品に飲みながら玄樹は浅い溜息をつく。
「これ飲み終わったら、また勉強しに戻らなくちゃ」
「大変だなー。一人っ子なんだってね。医者の跡取りなんて代わりいなさそうだもんね。ま、俺も二浪してからの合格だったしドンマイドンマイ!」
岸くんが明るく玄樹の肩を叩くと、彼はふいにこんなことを零した。

27 :ユーは名無しネ:2018/05/13(日) 20:18:27.78 ID:lqvfDC7pb

「あの本には…江戸時代に大規模な干ばつがあって、飢饉で村人は全滅に近い状態だったって書かれてて…。その時、星からの使者が雨を授けてくれた。だけど…」
女性は小刻みに頷いていた。そしてじっと聞き入っている。
「雨を授かる代わりに、異なる災いを受け入れた。それによって、背分教を興してその災いの緩和を計った。それが背分教が誕生した理由…ってあったけど…」
「あんたは頭がいいね。あの難解な民話集をよく読む気になったね。そう、あれはそのまま村の歴史を綴っているんだよ。おとぎ話なんかじゃなく、実際にあった史実をね」
「…」
「民話集は学校で手に入れたのかい?三冊あって、もう一冊は郷土歴史資料館に納められているけどあれは持ち出せないね。あと一冊は行方不明らしいんだけどね」
「その、異なる災いって…?」
颯が前のめりに女性に尋ねた。彼女は足の患部をさすりながらそれに答える。
「それが呪いだよ。挙武様で何代目かね…挙武様の前は、私の息子だった。もうこの世にいないけどね…」
颯と谷村は言葉を失う。
女性の視線の先には、縁側を通り越して庭に立つ墓碑があった。それは西日に照らされてオレンジ色に輝いているように見えた。
「この時期…星の配置と共にそれは現れる。化け物化し、人の生き血をすする吸血鬼。人の心なんて失われて誰かれ構わず襲って殺すんだ。そう、自分の親でさえもね…」
いつの間にか、谷村も颯もじっとりを汗をかいていた。握った拳にそれが滲んでいる。
「挙武様は…私の子よりもより濃くその呪いが現れていた…だからまだ大丈夫だと思っていたお年だったのに…あの悲劇が起きたんだ。
挙武様はね、5歳の時…呪いが覚醒して隣で眠っていたお母様と妹を食い殺してしまった。そして…」
女性はそこで一旦言葉を切った。きゅっと唇の端を結んだ後それを開く。
「その前の晩、教会で育てられていた幼い嶺亜様が周りの大人にしきりに『挙武をみんなから離して』と訴えなさっていたんだ。
嶺亜様にはどういうわけか、挙武様が化け物化するタイミングがはっきりと分かってらっしゃるんだよ。それだけでなく、化け物化している前後の間の行動もね」

.

18 :ユーは名無しネ:2018/04/01(日) 22:44:56.07 ID:F8iI2cowm

読んでいた本を閉じた谷村は、自分以外の四人…岸と郁、神宮寺と玄樹が机に突っ伏したり椅子に座りながら仰向けになって寝入っていることに今更気付いた。
「…」
起こす理由もないし、トイレに行きたくなったから谷村は図書室を出る。
校舎はシンプルな作りだった。二階建ての木造建築…図書室が一番奥にあり、その隣が5,6年教室、そしてその隣が3,4年教室そして調理室。それらを通り過ぎて一階へと続く階段がある。降りてすぐのところにトイレがあったのを思い出した。
用を足して、ふと校舎内を探索に出かけた颯のことを思い出す。ちょうど読んでいた本のことで話したかったから谷村は彼を探すことにした。迷う作りではないし、すぐに見つかるだろうと思ったから何も考えずにとりあえず徘徊した。
谷村は鉄筋コンクリートの校舎でしか学んだことがないから、木造校舎というのは変に異次元に迷い込んだようで落ち着かない。まるでテーマパークのアトラクションの建物の中を歩いている感覚で現実味がない。
だけど卒業制作のモザイク画や記念の手形なんかは懐かしさがあった。ふと通りかかった壁には『第89回生制作』と記されたちぎり絵が掲げられていた。
「89回生…」
谷村はさっき読んだ卒業アルバムを記憶の引き出しから開ける。確か、嶺亜たちの代だ。
記憶力には自信があった。そこに記されている卒業生の中に直筆であろう嶺亜と挙武の名前があった。玄樹は一つ年上らしいから88回生だ。
「…られたらしい。通りかかった人が羽生田家に連絡を入れてくれて教会まで送られたそうだ」
どこからか、神妙な誰かの声が聞こえてきた。すぐ側の少し開いたドアの上を見やると『職員室』とあった。
「昨日も具合が悪くなったと聞いた。この時期に嶺亜様の身に何かあっては村人皆の生死に関わる…神父様ではもう代わりはできないだろうな。『声』を聞くことができるのは嶺亜様ただ一人だけだから…」
「だが日没前に背分神社に挙武様を棺に納めることなど誰にも出来るだろう。御印の期間は数日だ。それさえ過ぎれば…」
「それこそ神父様が許すまい。役目に背けばまたどんな形で呪いが災いを呼ぶか分からんからな」
気付けば谷村は気配を殺してその会話に聞き入っていた。彼らの声色から何か緊急事態であることが窺い知れたし、それに嶺亜と挙武の名前が出てきたからだ。
「しかし何故嶺亜様はよそ者と一緒にいたというのだ?教会で安静にしていれば倒れずに済んだものを」
「いや…村の救世主である前に嶺亜様もまた年頃のせ青年だ。たまには自分の役目を忘れていたかったのだろう。皮肉にも、こんな時期にだがな…」
「確かに。お気の毒ではある。それは羽生田家の挙武様も同じ…彼の場合はまた別だが…」
「そういえば…そろそろ命日か…。あれは悲惨だったな…今思い出しても震えが来る。御印の呪いがあれほどまでに凄まじいとは俺もあの時までは半信半疑だった。5歳の子どもであれだ、二十歳になられた挙武様では何人犠牲が出ることやら…」
「何人、なんてものでは済まされないだろう。村人全員同じ目に遭う。そうならないために嶺亜様が『声』を聞いて我々に知らせてくれるのだ。救いは残されている」
「それこそ皮肉な救いだ…呪いの主は何故嶺亜様に『声』を授けたのだろう…」
そこで谷村はミスを犯した。聞き入るあまり、ふいに遠慮のないでかいくしゃみが出てしまった。
「誰だ!?」
反射的に、谷村はもう無我夢中でその場から逃げた。自分のどこにそんな力が隠されていたのかは知らないが、職員室とその隣の部屋の間にある廊下から外に出た。
後で冷静になって考えればきちんと説明さえすれば別に逃げる必要などなかったのだろうが、その時の谷村にはそこまで思い至る余裕がなかった。
追ってこられるかもしれない、と恐怖に駆られてとにかく走って走って走った。
そうして気付けば谷村は古民家の前に立っていた。

つづく

13 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 22:41:56.28 ID:N8r8sD48o

店を出ると、栗田が「あれ何?」と指を差す。送電鉄塔と見紛うような木製のそれは、村のどこにいても確認できる唯一の建造物だ。
「火の見櫓だよ。今はもう使われてないけどけっこう昔に建てられてて、取り壊す理由もないから残ってるの」
「へー。登ってみてー」
栗田は高いところが好きなのだろうか。嶺亜は笑う。
「イタズラで子どもが登ってしまわないように鉄柵で囲まれてて鍵もかけられてるからちょっと無理かも。鍵は…確か玄樹の家が管理してたっけ」
答えると、栗田は残念そうに「ふーん」と呟いた後、こう言った。
「なーれいあ。今度さ、俺んとこにも遊びに来てくれよ。案内すっからよ」
「…」
嶺亜はすぐに返事ができなかった。それを栗田が察し、こんな問いを投げかけてくる。
「ダメなのかよ?神父のおっさんが許してくれねえとか?」
「栗ちゃん、僕はね…」
嶺亜は真っ直ぐに栗田を見つめた。屈託のない純粋な瞳。そこに映る自分がうっすらと見えた。
蝉の声が遥か遠くに飛んでいく。
真っ青な空にはちぎれ雲が浮いている。
緑の山々はまるで門番の兵士のように見えた。自分は、この村から離れることは許されない。否、嶺亜だけじゃない、村人みんながそうだ。
気が付けば、無意識に嶺亜は栗田の手を握っていた。そしてこう答える。
「使命があるの。他の誰にもできない、僕にしかできないことが。僕がいなくなってしまったら…この村は…村の人たちは殺されてしまうの」
遠くで耳鳴りがした。まだ空はこんなに高く明るい陽射しが降り注いでいるのに。
それは何かの共鳴だったのかもしれない
「殺されてしまうって…誰にだよ…?」
怪訝な栗田の顔がすぐ近くにあった。笑っていない彼はひどく端正で精悍に見えた。綺麗な顔立ちだと改めて認識する。
嶺亜は一瞬だけ眼を閉じ、そして答えた。
「挙武に」

つづく

10 :ユーは名無しネ:2018/03/11(日) 22:40:32.32 ID:N8r8sD48o

「誰とも関わりを持とうとしない嶺亜が珍しいよね。自分から会いに来るなんて」
「ホントだぜ。でもあの栗田?だったっけ?アイツ遠慮もクソもねー根っからの明るいおバカって感じだし、人は自分にないもの求めるって言うからな。どっかが嶺亜の琴線に触れたのかもな」
二人の会話から察する嶺亜像は颯の持つ印象とは少し違っている。少なくとも、昨日の朝に颯が迷い込んだ時は穏やかで慎ましやかな生活を送る親子といった印象を抱いていた。
それを口にすると、玄樹はその大きな瞳にわずかな憂いを浮かべる。
「嶺亜は小さい頃からこの村を救う救世主のような存在として崇められてるからね…学校でも皆気を遣ってた。生徒だけじゃなく先生も、大人たちもみんな…。唯一挙武だけが嶺亜と対等に口をきいてたっけ」
「救世主?教会の跡取りってそんなにデカい存在なの?たかが宗教だろ?」
郁の問いに、玄樹は頷く。
「そう。たかが宗教。だけどこの村にとって背分教の教えは絶対だから…。それに背くなんてことは考えられない」
その瞳にはもう憂いはなく、何か強く訴えかける感情の片鱗が見てとれた。よそ者の岸くん達にとっては近頃流行の新興宗教のような胡散臭さだが、起源も古いしもっと根深い何かを感じずにはいられない。
それに…あの教会に熱心に通う信者やミサの類いの集会も想像がつかない。だが確かにお守りを置き、日没には戸を閉ざしてひっそりと生活をするという習慣は根付いている。
それはまるで、宗教というよりは何かに対する畏れのような…そんな印象を今更ながらに岸くんたちは抱いていた。
「挙武だけが対等に、か…お金持ちだし誰にも媚びないって感じしたもんなあ」
「挙武は金持ちを鼻にかけるような奴じゃないぜ。まあ俺ら庶民とは感覚が違うからナチュラルに金持ち自慢みたいな発言はあるけどよ。あいつも、誰にでもフレンドリーなようで固く閉ざしてる部分があるからな。まあ無理もねえけど…」
神宮寺と挙武は良好な関係のようだ。彼は挙武のことを悪くは語らない。一方、嶺亜とはウマが会わない素振りを見せる。そしてそれまで黙々とトウモロコシをかじっていた谷村が呟いた。
「無理もない…?」
どうやら神宮寺の最後の一言が気になったようだ。だがその呟きが囁きレベルの音量だったがために誰にも拾われることはなかった。
腹ごしらえが済むと、選鉱所を抜けてさらにその先の森を歩き、岸くんと神宮寺がカブト虫を一匹見つけて大騒ぎしている間にそこに付く。
「神社…?」
小さな古びた神社がぽつんとそこにあった。手入れも何もされておらず。賽銭箱のようなものは殆どもう壊れかけていた。これも古き良き日本の遺産だろうか…
その神社の側に初日に見た赤い池に似た、もっと小さな池があった。

39 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 22:06:42.26 ID:rNv+spPDG

「…実は僕はね、本当はこの家の子じゃないんだ。だからどっちにも似てないのは当たり前と言えば当たり前だね」
だがその呟きに悲壮感はなかった。むしろ、何か昔話を語るかのように自然な口調だった。
「お母さんがね、子どもが出来ない体だったみたいで…この家の跡取りのこととか、もの凄く悩んでお父さんやお婆ちゃん達とも何度も話し合って…ちょうどその頃、お母さんの親友が赤ちゃんを産んですぐに病気で亡くなったんだ」
「え、てことはまさか…」
「そう。その赤ちゃんが僕だよ。本当のお父さんはその前に亡くなってて…だから僕の本当のお母さんは亡くなる直前に僕を岩橋家で引き取ってくれないか、ってお母さんに頼んだんだって」
玄樹の紅茶のカップは空になっていた。
「皆が賛成してくれて、僕は岩橋家の跡取りになった。この話を僕はお母さんに小さい頃から聞かされてた。だけどね、全然ショックじゃなかったんだよ。強がりじゃなくてね。
だってお父さんもお母さんも、お爺ちゃんもお婆ちゃんもみんな僕を本当の子どもみたいに可愛がってくれたから。
だから僕は幸せだったし、一生懸命勉強してこの病院を継がなきゃって思ってる。そのためにも今年こそ合格しなくちゃいけないんだけどね」
「ふうん…そっか…そうなんだ…」
突然の身の上話に、岸くん達が頷くことしか出来ないでいると、玄樹はふっと笑う。
「実はこの話、神宮寺にだけしかしてないんだけどね。子ども心にこれはあんまり友達や他の人にも話さない方がいいんだって思ってたから。だから挙武とか嶺亜は知らないと思う。
僕も誰かに話そうなんて思ったことないし…でもなんだか岸くん達は他人と思えなくて。不思議だな」
「そんな風に言ってもらえると光栄だね、岸くん。やっぱり玄樹くんには話しといた方がいいのかも…」
颯の提案に、皆は頷く。玄樹はきょとん、としているが岸くん達が昨日颯と谷村が聞いた話とさっきまで開いていた情報収集を全て話すとさすがに表情を固くした。
「…」
「でも俺たちは別にこの村の秘密を曝いてどうこうってわけじゃないよ。勿論、最初は軽い気持ちでミステリー発見みたいな感じでやって来たけどさ」
岸くんは真っ直ぐに玄樹の目を見て言った。頷きながら、颯も続く。
「知ってどうなるもんでもないし、何もできないけど…」
「一宿一飯の恩義を果たす意味でもなんか力になれることあったらとは思ってる。てか颯と谷村は半徹夜までしたしな」
デザートのフルーツをしこたま食べながら郁もそう言った。
谷村は何か他のことに気を取られているのか、紅茶のカップを見つめたまま押し黙っていた。

つづく

39 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 22:06:42.26 ID:rNv+spPDG

「…実は僕はね、本当はこの家の子じゃないんだ。だからどっちにも似てないのは当たり前と言えば当たり前だね」
だがその呟きに悲壮感はなかった。むしろ、何か昔話を語るかのように自然な口調だった。
「お母さんがね、子どもが出来ない体だったみたいで…この家の跡取りのこととか、もの凄く悩んでお父さんやお婆ちゃん達とも何度も話し合って…ちょうどその頃、お母さんの親友が赤ちゃんを産んですぐに病気で亡くなったんだ」
「え、てことはまさか…」
「そう。その赤ちゃんが僕だよ。本当のお父さんはその前に亡くなってて…だから僕の本当のお母さんは亡くなる直前に僕を岩橋家で引き取ってくれないか、ってお母さんに頼んだんだって」
玄樹の紅茶のカップは空になっていた。
「皆が賛成してくれて、僕は岩橋家の跡取りになった。この話を僕はお母さんに小さい頃から聞かされてた。だけどね、全然ショックじゃなかったんだよ。強がりじゃなくてね。
だってお父さんもお母さんも、お爺ちゃんもお婆ちゃんもみんな僕を本当の子どもみたいに可愛がってくれたから。
だから僕は幸せだったし、一生懸命勉強してこの病院を継がなきゃって思ってる。そのためにも今年こそ合格しなくちゃいけないんだけどね」
「ふうん…そっか…そうなんだ…」
突然の身の上話に、岸くん達が頷くことしか出来ないでいると、玄樹はふっと笑う。
「実はこの話、神宮寺にだけしかしてないんだけどね。子ども心にこれはあんまり友達や他の人にも話さない方がいいんだって思ってたから。だから挙武とか嶺亜は知らないと思う。
僕も誰かに話そうなんて思ったことないし…でもなんだか岸くん達は他人と思えなくて。不思議だな」
「そんな風に言ってもらえると光栄だね、岸くん。やっぱり玄樹くんには話しといた方がいいのかも…」
颯の提案に、皆は頷く。玄樹はきょとん、としているが岸くん達が昨日颯と谷村が聞いた話とさっきまで開いていた情報収集を全て話すとさすがに表情を固くした。
「…」
「でも俺たちは別にこの村の秘密を曝いてどうこうってわけじゃないよ。勿論、最初は軽い気持ちでミステリー発見みたいな感じでやって来たけどさ」
岸くんは真っ直ぐに玄樹の目を見て言った。頷きながら、颯も続く。
「知ってどうなるもんでもないし、何もできないけど…」
「一宿一飯の恩義を果たす意味でもなんか力になれることあったらとは思ってる。てか颯と谷村は半徹夜までしたしな」
デザートのフルーツをしこたま食べながら郁もそう言った。
谷村は何か他のことに気を取られているのか、紅茶のカップを見つめたまま押し黙っていた。

つづく

72 :ユーは名無しネ:2020/02/17(月) 17:28:05.94 ID:W4tjFA27o

人が減っちゃって寂しいですが、神7は確かに愛されてると思います。
また覗きに来ますね!

32 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 21:55:59.11 ID:rNv+spPDG

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

〜四日目〜

目覚めると、酷く汗をかいていてそれが不快で嶺亜は眼がさめた。体が水分をほしがっている。起きて水を飲みに行こうとしたら、ベッドの脇に水差しとコップが置いてあることに気付く。
殆ど全て飲み干す勢いで流し込むと、深呼吸をする。
まだ少し気怠いが、大分マシだ。栄養のあるものをきちんと食べてよく眠ったからだろう。このところ、あまり食べていない上によく眠れなかったからそろそろ体力も限界だったのかもしれない。
「…」
室内の時計を見ると、まだ6時過ぎだった。挙武は…まだ目覚めていない。背串岳のふもとにいるようだ。
「…?」
そこで嶺亜は気付く。水差しの水が冷たかったことに。部屋の中は冷房を弱く作動させているとはいえ、水が冷えるような温度ではない。
「お、れいあ起きてっか」
控えめにドアが開いて、栗田が顔を出す。
「まさか栗ちゃん…もう起きてたの?この水…」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!俺は岸と違って朝はそんな弱くねーからよ。それよりれいあ、顔色が昨日より大分良くなってんじゃん。やっぱ栄養のあるもん食って寝るのが一番だな!」
「…」
「食いもんも昨日もらった分がまだまだあるからな!けど医者のおっさんが胃に負担かけるのは良くねーとかって言ってたから胃にいいもんメモしてあっからそれ今から用意するからもうちょっと寝とけよ。出来たらまた起こしにくっからよ」
嶺亜は栗田の顔を直視することが出来ず、俯いた。
胸が苦しい。だけどそれは、体調が悪いせいではない。感情の昂ぶりを無意識に抑制しようとした結果だ。
それに気付かれまいと嶺亜は「うん」と小さく返事をして再び横たわった。
ドアがしまったのを確認したと同時に、耳鳴りがやってくる。
挙武が目覚めた。嶺亜がそこにいないのを確認して察してくれるだろう。今朝は任務を遂行することが出来ないことを。
次に会った時、嫌味を言われそうでどうやって言い返してやろうか…と考えているうち胸の苦しさは和らいでいく。身を起こし、深呼吸をして整えると部屋の窓の内戸を開けた。
朝の光が射し込んでくる。その眩しさに思わず顔を逸らした。
窓の外に広がる見慣れた牧歌的な風景を、今日ほど皮肉めいた気持ちで眺めた日はない。この平和そのものの田舎にどれだけの時間、呪縛が蝕んで来たか…
『この子には…御印の時期を正確に読み取る力が備わっている』
あの日、父が教会に村の人たちを集めてそう宣言した日のことを思い出した。
今でも鮮明に覚えている。それまでぼんやりと聞こえていた『声』がはっきりと聞こえたあの日のことを。
5歳の自分が拙い言葉でそれを伝えても誰も相手にしてくれなかった。父だけが怪訝な表情だったがそれでもどうすることも出来ず、あの悲劇が起こる。
背分村にかけられた『呪い』を一身に背負う『御印』を持つ挙武は、通常10歳前後で覚醒するはずなのに5歳でそうなった。
まだその心配がないから…と一緒に寝ていた母親と妹が、覚醒し化け物化した挙武に首筋を噛まれて亡くなった。彼の祖母はその頃にはすでに他界していて、父と祖父はたまたま用事で家を空けていたから餌食にならずに済んだが使用人も何人か亡くなったと聞いている。

51 :ユーは名無しネ:2018/08/05(日) 21:11:50.24 ID:Z+wvRkof0

「…今更何を言っても私どものしてきたことは消せるものではありません。ですが足を痛められたと聞いたので、せめて応急処置だけでもと思い窺いました」
玄関に立っていたのは玄樹の母だった。この雨で颯達の足音もかき消されてしまっているのか、耳に入らないのかは分からないが、気付く素振りはなかった。
「…」
迷ったが、茂みに身を隠して岸くん達はその会話を聞く。何故か玄樹も母に声をかけようという気は起こらなかったようだ。
「ちょっと挫いただけですからじきに良くなると思うので、どうぞお引き取りください」
おばさんの言い回しは丁寧なものだったが、拒絶の意は痛いくらいに伝わってくる。だが玄樹の母は退かなかった。
「お恥ずかしい話ですが…自分が子どもを持つことでようやく気付かされました。私がしたことがどれだけ愚かしいことなのかを」
「…仕方ありませんよ。ようやく授かった子が、私の子が自殺したことが原因でお亡くなりになったのですから」
ひどく機械的な、無機的な口調でおばさんはそう返した。
「いいえ…あれは私の弱い心が招いたことです。恐怖に支配され、疑心暗鬼に取り憑かれてその結果自ら自分の子を殺したも同然なのです。それなのに、あなたにあたってしまった…
人として許されないことです。子を亡くすことがどれだけ辛いかを自分自身が痛いくらいこの身で知ったことなのに…」
すすり泣く声が、雨音に混じって聞こえてくる。玄樹はそれを歯を食いしばって聞いていた。
「今の私が玄樹を失ったら…それを思うだけで自分のしてきたことが許せません。あなたは最愛の息子さんを亡くしたばかりか、呪いをなすりつけようとしたとまで私どもに責められ…
こんなところに追いやった私たちの罪は一生消えることがない。それは十分に分かっています。ですがこのまま何もしないというわけにもいきません…!!許して下さいなんて言いません、ですがせめて償いを…」
玄樹の母の口調は、感情の昂ぶりと涙でしゃくり上げるのでどんどん荒くなっていく。
そのうちに、それは嗚咽に変った。自らの過ちを悔いる母の姿を、玄樹は直視できず俯いて震えていた。そこで岸くんと颯は気付く。玄樹が時折見せる怯えにも似た憂いは、きっと母のこの後悔と懺悔にリンクしているからなのだ、と。
玄樹の母の嗚咽と断続的に流れ続ける雨音、そして沈黙が悲劇のレクイエムのように響く。
呪いが招いた悲劇は、当人達だけでなく村人全体をも巻き込んでループし続ける…この雨を欲するがあまり受け入れたものの代償はあまりにも大きく、悲劇は未来永劫この村で続いていく。そんな絶望を感じさせる光景だった。
岸くんと颯がいたたまれなさに唇を噛んでいると、唐突にこんな声が響いた。
「これは…罰なんだよ」
それは、おばさんの声だった。
「…あんたたちのせいじゃない。そりゃあ、全く恨んでいないと言ったら嘘になるけどね」
かすれたような、おばさんの声はまるで教会の懺悔である『神』への語りかけのように聞こえた。
独白のような、おばさんの声が雨音に混じって微かに伝わってくる。
「あの子を産んで…その背中にあの『御印』があって…そのことでどこかであの子を畏れていた。だからあの子を心の底から愛することができなかった。
あの日…あの人を…夫をあの子が喰い殺してしまった時…私はあの子から逃げた。もう恐怖しかなかったよ。殺されたくない、ってね…」
「…」
「あの子が自ら命を絶ったのは…『化け物として生きたくはない』のではなくて、実の母である私からも愛されず、表向きは敬いの対象であっても心の底では誰からも拒まれる存在であることを悲観したからだったんだろうね。それに…」
そこでおばさんの声がわずかに震えたのを颯は感じ取った。
「あの子が死んで…私は自分の醜さに改めて気付いたんだよ。悲しむよりも、ホっとしてしまったんだ。どこかであの子のことを…夫を殺した化け物だと思ってしまっていた…あの子もきっとそれを感じ取っていたんだろう」
皮肉にも、雨は続く。それはまるでこの村の悲しみを嘲笑うかのように…
「だから私はここに籠ったんだよ。あんた達のせいじゃない。ここに住んで、毎日あの子の墓に手を合わせる。それが私にできる唯一のあの子に対する償いなんだ。だからもう…そっとしておいてほしい」
玄樹の母は言葉を失うが、そこから立ち去ろうとはしなかった。
雨はいよいよ激しく、まるで誰かの涙のように地上に降り注いでいた。

つづく

59 :ユーは名無しネ:2018/10/07(日) 23:30:16.70 ID:yPh9wWLKp

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

雨は一時より弱まったが、今なお降り続けている。その中を、傘を差しながら挙武は嶺亜と背分神社への道を歩いていた。
「よくあの爺さんが許したな。部外者を車に乗せるなんて」
ぬかるんだ道を慎重な足取りで挙武も嶺亜も歩く。皮肉を挙武が飛ばすと、嶺亜は真っ直ぐ前を見ながら事務的に答えた。
「僕の気持ちを察してくれたんでしょ。挙武と二人きりで車内にいるなんて今の体調だと酷だから」
嫌味が返ってきて、挙武は苦笑を漏らす。もっとも、嶺亜との会話に皮肉や嫌味が備わってないことの方が稀だ。
「さっさと終えて愛しい相手のいる車に戻ることだ。急ぐか?」
「急いだって意味ないでしょ。それにこの道、雨が降るとちょっと歩きにくくてしんどいし。こんな服着てるから余計にね」
半袖シャツの挙武と違い、嶺亜は重苦しい宗教服だ。真夏にこんな服を着ろだなんて、最初に決めた奴はドSに違いないと挙武はこの季節が来る度に思う。そりゃあ年寄りには無理だろう。早々と後継を嶺亜に譲った神父の考えも、そのへんにあったかもしれない。
20分程度の道のりを、挙武も嶺亜もほとんど無言で進んだ。会話が弾むはずなどない、今は呪いを背負った生け贄と、それを管理する求道師だ。一切の感情は捨てなくてはならない。
嶺亜の息が弾みかけた頃、視界は開ける。無骨で不気味な背分神社が姿を現した。近くの背分沼はこの雨で若干増水しているのが見える。
破壊された南京錠はもう新しいものが取り付けられていた。挙武や嶺亜の他にもここに通わなくてはならない役割を担う者はいる。南京錠や扉、棺桶を新しく付け替え、設置する者だ。
宗教服のポケットから鍵を取りだし、嶺亜は神社の扉を開けた。
窓も通気口もないそこは、夕方と言えども真っ暗だ。電灯はあるが、ほとんど意味がないのでごく小さな灯りしか灯さない。薄暗い部屋には今朝届けられたであろう新品の棺桶が置かれてある。
「どこに地下室があったって?」
挙武は地下室があると聞いた時、少し気になったので嶺亜に訊ねた。彼は無言でその凹みの辺りを指差す。
「ふうん…これがねえ…今まで誰にも気付かれずにあったって訳か。どういう意図で作ったんだろうな」
「分かるわけないでしょ。分かってたらとっくに…」
言いかけて、嶺亜は押し黙った。

20 :ユーは名無しネ:2018/04/15(日) 21:02:18.07 ID:GMXSfNCzP

「んが!」
自分のものか誰のものか分からない、凄まじいいびきで岸くんは無理矢理覚醒を促された。気付けば寝入ってしまっていて、図書室内の時計を確認すると小一時間眠っていたようだ。
のびをして、あたりを見渡すと郁も机に突っ伏して寝ている。神宮寺と玄樹も少し離れた席で寝ていたがやがて二人は起き始めた。
「ふあ…寝ちゃってたね。今朝早かったしあちこち移動したから疲れたのかな」
まだ少しかすれた声で玄樹が欠伸まじりに呟く。神宮寺は首を左右にひねって鳴らしていた。
岸くんは谷村と颯が室内にいないことに気付く。確か颯は校内の散策に出ると言っていたが、谷村はどうしたのだろう。
「トイレかなんかじゃねーの?」
神宮寺に言われて、岸くんもトイレに行きたかったから二人で行ったがそこにはいなかった。用を足してまた図書室に戻ろうとすると、教員の男性にそろそろ閉めるから出てほしいと言われた。
「谷村と颯を呼んでこなきゃ」
岸くんと神宮寺は手分けして二人を探した。と言っても校舎はシンプルな作りだからものの数分で見て回れるがどこにもいない。校庭に出てみたが、姿は見えなかった。大声で呼びかけても返事はない。
図書室に戻って玄樹に説明していると、ちょうど郁も起きてきた。玄樹はうーんと首を捻りながら、
「体育館かな…行ってみよう」
体育館へは職員室の前にある連絡通路を通らなくてはならないが、鍵が閉まっていた。教員に尋ねても、今日はここの鍵は開けてないから入れるはずがないと返される。
「どうしたんだろ…二人してどこに行くっていうんだ…」
玄樹の焦燥感が濃くなり始める。携帯電話で連絡を取ろうにも生憎ここは全域圏外だ。便利な機能に慣れすぎた岸くんたちは途方に暮れる。
「ま、二人ともいい年した奴らだし誰かに道でも訊いて戻ってくるだろ」
呑気な郁の一言に、岸くんも頷きかけたが玄樹と神宮寺はそうではなかった。二人で顔を見合わせて、時計を見ている。
「まだ4時半だから日没までに少し時間がある…先生や村の人にも協力してもらって捜索しよう」
「へ?いやそんな大それた…いいよ別に。どっかにいるでしょ。迷子なんて年でもないし」
小さい子どもでもないし、まだ一時間も経っていない。そう広くない村だから捜索してもらうほどでもない。そう思って岸くんは遠慮がちに言ったが玄樹は首を横に振った。
「どっかで怪我して動けないのかもしれないし、そうなったら危険だから。とりあえず先生に報告してくる」
玄樹が職員室に駆けて行き、その数分後に校内外放送で玄樹が颯と谷村を呼びかける声が鳴り響いてくる。
なんだか大ごとのように颯と谷村の捜索が始まってしまった。岸くん達は暫くの間、校門前でいつ二人が戻ってきてもいいように留まった。
やがて少し陽が傾きかけた1時間後に二人が発見された、と村の人から報告を受けてホっと胸を撫で下ろす。
岸くんは「もー心配したじゃん!」と明るく背中を叩いたが、颯と谷村の表情は冴えなかった。
その理由を、岸くんと郁は病棟に戻ってから颯と谷村から聞いた。それはにわかには信じがたい内容だったが…
「あれ、そういえば栗田がまだ戻ってない…?」
栗田は倒れた嶺亜の看病をするために教会に泊まることになったと玄樹が父親から聞き、それを岸くん達に報告した。

.

19 :ユーは名無しネ:2018/04/15(日) 21:01:12.63 ID:GMXSfNCzP

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」

夢を見ていた。
ゆらゆらと揺れる何かに乗せられて、挙武は漂い流れる。視界はすこぶる悪く、どこにいるのか、何をしているのか分からない。明滅する光の点が視覚を断続的に刺激していた。
異臭がして、挙武は顔をしかめた。何の臭いなのかは皆目見当がつかない。ただ酷く不快だった。
「…?」
どうやら自分は森にいて、その向こうで炎が揺れている。異臭は何かを燃やしているからなのか・・・おぼつかない足取りで近づくとうっすらとそれは視界に入ってきた。
低く唸るような声・・・まるでサイレンのような音は人の声だ。大勢が口々に何かを唱えながらぐるぐると炎の周りを回っている。
定期的に繰り返される呪文が、どんどんとその大きさを増す。耳を塞ぎたくなるような大音量に達したところでそれが見えた。
炎の中に、嶺亜がいる。
そしてその嶺亜の背後には化け物がいた。
その化け物には酷く見覚えがあった。だがそんなはずがない、という強い否定が挙武の中に駆け巡った。
その化け物は自分だ。
なのに何故自分はその光景を見ている?
ひどい矛盾に、挙武の頭はパニックに陥った。そんなはずがない、そんなはずがない、そんなはずが・・・
幾度となく繰り返される否定の奥で、とてつもなく不吉な予感がよぎった。
それと同時に、嶺亜の後ろにいた化け物はニヤリと笑って口を開けた。
嶺亜は動かない。まるで人形のように無表情で立ち尽くしている。後ろの化け物に気付いていない。気付く素振りも見せない。
ひどくスローな動きで、化け物は開けた口を嶺亜の首筋へと運んでいく。
やめろ
そう叫んだつもりだったが、まるで水の中のように声が届かない。駆け寄ろうにも足も酷く重くてこれもまた水中を歩いている感覚だ。ひどくもどかしかった。
「…酷い有様だった…どこから来たのかは知らんが、この時期にここに来るなんて運がない…」
「どうする…?捜索願いが出ていたら厄介だが…」
「どうするもなにも、全て秘密裏に運ぶしかないだろう。遺体はどこに?」
「すでに林に埋められたらしい…」
どこからか、雑音混じりにそんな声が聞こえてくる。だがそんなことよりも、強烈に視界に入ってくるものに挙武の神経は一点に集中した。
化け物が嶺亜の首筋に噛み付く寸前に、挙武ははっきりと見た。
嶺亜が自分に向かってにっこり笑っているのを。

.

37 :ユーは名無しネ:2018/06/10(日) 22:03:37.76 ID:rNv+spPDG

「神様を崇める宗教というよりは、呪いの緩和みたいな役割の方が強いんだ。どうりであの教会には偶像みたいなものが何もないと思った。普通、宗教というのはまず偶像ありきだから」
「ふうん…そういえば…」
「背分教では神父が最高位ってことになってる。呪いが暴走する時期…この時期を当てることができるのは星の動きに詳しい天文学者的役割の人くらいで、この頃はそれができる人がほとんどいなかった」
「いなかった…ってことは…」
「そう。大抵は被害者が出た後でしか対策できなかって。痣のことを『御印』って呼ぶみたいなんだけど、それを持つ人の家はなんとなく隔離されていて、監視されてたみたい。
でも迫害されてる感じはこの本からは感じられないな…むしろ、災いを一身に背負ってくれているみたいな丁重な扱いっぽい…」
「なんで挙武にその『御印』があるんだろう…血筋とか?」
岸くんの疑問に、倉本が頭をひねりながら
「けどよ、挙武の前はそのおばさんの息子だったんだろ?親戚でもなんでもねーみたいだし、血筋じゃなくね?そのへんのこと書かれてないの?」
言われて、谷村がページをめくりながら答える。
「そういったことは書かれてないな…ただ、その『御印』を持つ人は村に一人ってことになってる。その前提で書かれてるみたいなんだ。二人も三人も同時にいない。だとしたら…」
谷村の説明を、颯が補足する。
「多分なんだけど、『御印』を持つ人が亡くなったら…次に生まれてくる誰かにまた受け継がれるんじゃないかなって思うんだよね。転生みたいな…」
「ふうん…そう考えると辻褄が合うな…」
岸くんが頷いていると、今度は颯が訊ねる。
「岸くん、岸くんが関係ありそうって言ってたその手記みたいなの…それにはなんかあった?」
昨夜、岸くんは倉庫から一冊の手記を発見した。かなり奥の方の、しかも他の書物にほぼ埋もれた状態で発見したのは全くの偶然だ。
こういった発掘作業は岸くんの得意とする分野だった。始めに会報を見つけたのもこの能力が故だ。
谷村と颯が民話集や背分教に関する難解な書物を読み解いてくれているから、これくらいは俺が読むと引き受けたものだ。
「うん…関係あるかどうか分かんないけど…なんかとにかく悲壮な内容なんだよね。男の人が書いたのか、女の人が書いたのか分かんないけど…しかもけっこう抽象的な書き方で…」
頭を掻きながら岸くんは答える。読解力や謎解きはあまり得意ではないから自信がなかったが探り探りの見解をとく。
「まず最初のページに『姑獲鳥がやってきて災いは運ばれていった』ってあって『だけどどうしても眼を背けることができない。あの子は確かにいたのだ。それなのに、何故…』『子を返せ』って続いてる。
ノートも当時の大学ノートだけどかなり痛んでるから何年前のものなんだろ…」
「姑獲鳥…?まあいいや、続きお願い、岸くん」
「『凶兆を告げる番』『2という数字は災いを示す也』『呪いは挙武様を選んだ』『私は狂ってなどいない、呪いが憎い、呪いが憎い、呪いが憎い』…あとはずっとこんな感じで10ページくらい埋め尽くされてる。
最初は関係ないかなと思ったけど挙武の名前が出てきたし、呪いが…ってあったから関係あるかなって」
「確かに。けど、なんだかちょっと薄気味悪いね。狂ってない…って訴えるってことは周りからはちょっとおかしい人みたいな扱いだったのかな」
「あ」
谷村が何かを思い出したかのように民話集のページをめくる。
「そういえばここにも『凶兆を告げる番』という一文が出てくる。具体的な記述がないから特に気にしてなかったけど…」
「ここって昔隔離の独房みたいなもんだったんだろ?そこに閉じ込められた人の手記かなんかかな」
郁が残ったおにぎりをかじりながら言った。

70 :ユーは名無しネ:2019/02/16(土) 00:00:15.16 ID:5bBjTKGOj

作者さんいつも面白いお話をありがとうございます!
このスレ見てると懐かしい気持ちになる

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